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月の本棚 九月 さよならのアルゴリズム

装幀に惹かれて手にとった。原題は”Goodbye for Now”、しばらくの間、さようなら。また会う日まで。ページを繰ると軽妙な会話が楽しく、ひと息に読んでしまった。

コンピューターオタクでプログラマーのサムはふとしたきっかけで、お見合いサイトの盲点をつくような画期的なアプリを開発する。パートナーを求めるユーザーがプロフィールとして書いた「見せたい自分」の文言はすべて無視して、カードの請求記録、メールのメッセージ、ネットの閲覧履歴などにアクセスし、より真実味のあるマッチングを行うという恐るべきプログラム。実際にありそうではないか。サムはそれを自ら試し、最高のパートナー、メレディスと出会った。

メレディスが最愛の祖母を亡くし、悲しみに暮れていた時、サムはまたもやその才能を発揮する。遺されたメールやビデオチャットなどデジタルの記録をもとに、祖母をバーチャルに再現するプログラミングをコンピューターに施したのだ。

メレディスは言った。おばあちゃんが何を言うか予測がつくことは、退屈ではなく安心なのだ。それが永遠に聞けなくなってしまったという現実が乗り越えられないのだと。

やがて祖母にメールを書けば、かつてのような返信が届くようになる。コンピューターは祖母が生きていた過去をなぞる。仲良しの会話には、こう言えばこう返す、という一定の法則があるから。

私は自分の父親のことを考える。母亡き晩年、バーチャルな母と会話できたなら、すこしだけ救われたのではないか、と。

亡くなった人とメールやチャットをするということ。それはやがてビジネスになる。さよならを言うために、自分の気持ちに決着をつけるために、さまざまな人がサムのもとを訪れる。AI(人工知能)はどこまで癒しになるのか。そして悲劇が訪れる……。

だんだん真剣に読みこんで、気がつくとぼんやりしていた。最初はコメディみたいだったけれども、これは永遠の喪失の物語だった。その壁の前に集うひとたちの優しさ、温かさに満ちていた。

大切なひとを失った悲しみには治療法などない。やはり優れたプログラマーである父親は言う。サムは生まれたばかりの頃に母を失っている。デジタルアーカイブがない世代。父が語る母のエピソード、言葉のひとつひとつがきわだって素敵だ。

大切なひとを失ったら、永遠に悲しむしかない。その壁は決して乗り越えられない。でも、常にみじめなわけじゃないのは、アイスクリームは相変わらずおいしいからだよ、と彼は言う。

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『さよならのアルゴリズム』 ローリー・フランケル著 羽田詩津子訳
(ヴィレッジブックス2013)


著者プロフィール

月刊『月の本棚  清水美穂子のBread-B』毎月24日公開
icon_shi 清水美穂子
ライター・ブレッドジャーナリスト

普段はBread+something good(パンと何かいいもの)をテーマに執筆・発信していますが、ここではBread-B。Bを外してしまって、Reading周辺のsomething goodを書いていきたいと思います。
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