人工知能は悪人を見抜けるか?

前回の続き。(「批評という僕の癖」

そもそも「批評」という厄介極まりない話題をなぜ急に持ちだしたかというと、お店の商品開発や会社の人事に関わりはじめたのもありますが、いちばんの理由は、未来のテクノロジーの外側を考えるためです。

つまり、人工知能(AI)に何ができて何ができないか?

未来の働き手はどんな能力にコストをかけて成長すべきなのか?

思い出すのは、ミシュラン2つ星の新進気鋭の料亭さんに食べに行ったときのこと。

語弊を招く言い方ですが、僕は、相手が本当に物を考えて喋っているときとそうでないとき(たとえば、挨拶やお世辞、下手な嘘、別の事を考えている、そもそも自分の頭で物を考えられない)の違いがわかる(正確には、検証不可能なので、そうとしか言いようがないほど声と話し方に差異を感じる)のですが、店長と「サーヴィス」としてお話させてもらった15分間のうち、たった1度だけ、気さくなシェフが漏らした本音を今でも強く覚えています。

「信用できる人間とそうでない人間を見極めるのは、本当に、難しい」

話の文脈は忘れましたが、これです。

現代のテクノロジーとしては、私の知る限りふたつの種類のアプローチがありえます。

ひとつは、3年前、エドワード・スノーデンが告発したアメリカ国家安全保障局(通称NSA)の通信監視プログラムのように、通話や通信の直接的な傍受はせずとも、携帯端末の個体番号や通信時刻、所要時間、位置情報などのメタデータを大量に収集、蓄積し、何らかの「異常」を自動検出するタイプ。

つまり、従来では収集も蓄積もできなかった微細でかつ大量の情報パターンとの秘められた相関関係を明らかにする、今流行りのビッグデータ分析がこれに当たります。

もっとも、仮に技術的に安価にできたとして、市民のプライバシー問題と、何の大義名分がこうした道徳的判断の自動検出を正当化するかという問題は依然残ります。

もうひとつはもっと直接的なやり方、つまり、脳の活動部位を観る方法です。

近年、脳の生理学的な活動を視覚化する技術がとみに発達しており、その代表が、臨床現場でも広く使われている磁気共鳴画像(MRI)であり、それを応用した映像版のfMRIです。

その成果として、犯罪者、特に猟奇殺人者に圧倒的に多いとされる精神病質(サイコパス)は脳の機能障害と判明しています。

つまり、ウソをつく、人や動物に平気で危害を加える、罪悪感と責任感に著しく欠ける、衝動的、人間関係に支配的などの特徴は、共感や道徳性、恐怖の感情などを司る脳の部位が小さく、活動も低いため、なのです。(ただし、脳の機能障害がなぜ起きるかは今も未知数)

とはいえ……。こんな面白い話もあります。

脳神経科学のこの分野で数々の受賞歴をもつジェームズ・ファロン博士は、ある時、山積みになった脳のスキャン画像を読影中にひどく奇妙な画像の存在に気付きました。

その脳の持ち主が、サイコパスか、あるいは限りなくそれに近い特質の人間かを確信したファロン博士は、その被験者名ー一ジェームズ・ファロンーーを見て、驚愕しました。

妻と44年間も連れ添い、3人の子宝に恵まれ、成功した科学者であり、犯罪歴や暴行歴もない自分があろうことか研究対象のサイコパスだったのです!

実はこれはさほど不思議なことではありません。

共感能力や恐怖心の欠如は、感情の排除が要求される特定の職ではむしろポジティブな要因として働くからです。たとえば、弁護士、外科医、科学者、シェフ、ジャーナリストやメディア関係者。

そして、経営者。

いずれにせよ、今のテクノロジーがもたらす個々の人間の見識はいくつかの面、いくつかの性質、いくつかの潜在的因子に過ぎません。

それは、判断材料になりえても、相手の何をどの程度まで信用できるかという、総合的・最終的な判断にはなりえないのです。

批評、すなわち、物事の良し悪しを公的にハッキリ言明する営みは、私たちの日本社会ではあまり馴染みなく、不協和をもたらすものともいえます。

それは、マスメディアの多くの記事があくまで良し悪しの価値判断を保留した「紹介」に留まり、インターネットの匿名の世界にこそ良くも悪くも批評らしきものがある現状からもいえるでしょう。

しかし、だれを、どの程度信用するかという問題は、文字どおり、人類の進化と進歩に関わる深刻な問題であったことは、また、別のお話。

今回ご紹介するアメリカ西海岸のロックバンド A Million Billion Dying Suns の解説といっしょに次回書きましょう。

その独特な世界観と音楽性をまずはご堪能してみてください。

京都スタッフ 緒方勇人
http://engineerism.com