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月の本棚 十月 ヒップな生活革命

20年ぶりにNYに行った。記憶のなかの店のほとんどは、姿を消していた。

昔と今の一番の違いはスマートフォンの存在だ。部屋を借りるのも車を呼ぶのも自分の居場所を確認するのも手のひらで、それはあっけないほど簡単だった。今さらながら、IT革命だ、と感動する。

革命。今話したいのは、もうひとつの革命のことだ。
出発前、昔のように(リアルの)書店で(紙の)地図と本を買い、旅の始まりを楽しんだ。
『ヒップな生活革命』はそのうちの一冊だった。

金融危機の後に新しい価値基準を持って生きる人々が増えて、アメリカの新しい文化の潮流をつくりだしているという。それはたとえば、ひどかったアメリカの食の質を高めている。

本当に必要なものは何か、考えてみること。自分が口にするもの、身につけるものは、どこで作られどこからやってきたのかを知ること。社会的な責任を大切に考える企業を支持すること。多数のそうした意識の積み重なりが、今のアメリカを少しずつ変えている。

わたしはいつしか、その流れのなかにいた。「本に書かれてあったのはこの感じだな」と気づく瞬間が何度かあった。少量であっても本当にいいものを作りたいと努力する職人たちと、自分に必要なものを知って消費する人々が住む、ブルックリンで。

近郊の生産者が日常的に公園や広場で開いているグリーンマーケット。そんな農家から直接新鮮な食材を調達し、日替わりのシンプルな料理を楽しませてくれるレストラン。夜は小さなキャンドルが灯り、深夜まで談笑する人たちで溢れている。ほんとうにおいしいコーヒーを淹れてくれるカフェ。工場と共にある小さなチョコレートショップでは、包装はラフだがすごく上質なチョコレートに出合った。近郊の素材を用いた自然派アイスクリームの店も素敵だった。セレクトにセンスを感じる小さな書店もあった。みんな小さいけれど元気な個人店だった。彼らは大企業主導の社会で独立した活動の場を確保していた。

ブルックリンでレストランやホテルを数店舗経営するアンドリュー・ターロウの「利益を最優先する社会の中では忘れられがちだった責任ある食との付き合い方」が印象的だった。彼はレストランで用いた肉牛のその皮をトートバッグに仕立てて販売もする。実際に何軒か彼の店で食事をし、カジュアルでフレンドリーなホテルも利用した。食べ物はいつでもおいしかった。無駄な飾りはなく本質的に贅沢。チップ制度がなく合理的だった。

アナログとデジタルが交錯した旅だった。その場に心地よく馴染むことができた。
20年のブランクは本が埋めてくれたのかもしれない。

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『ヒップな生活革命』佐久間裕美子著
(朝日出版社 2014)


著者プロフィール

月刊『月の本棚  清水美穂子のBread-B』毎月24日公開
icon_shi 清水美穂子
ライター・ブレッドジャーナリスト

普段はBread+something good(パンと何かいいもの)をテーマに執筆・発信していますが、ここではBread-B。Bを外してしまって、Reading周辺のsomething goodを書いていきたいと思います。
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