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十一杯目 僕にとってのあたりまえ

寒さと忙しさで、街中が足早になるこの季節。イルミネーションは好きだけど、込み合う歩道で立ち止まって撮影しているカップルには興醒めする。

ここ数年、クリスマスの夜は外食をしていない。「クリスマス特別コースとかいって、お店が忙しいから、みんな同じ料理を出してるだけでしょ」なんて興味ないふりをしてるけど、本心ではない。

僕たちの世界では、恋人と、電車の中で手を繋いだり、腕を組んで買い物したりするのはとても勇気がいる。まして、クリスマスの夜にディナーなんて、見知らぬ人たちにカミングアウトしているようなものだ。

ほんとは僕だって、みんなと同じように、クリスマスの夜に素敵なレストランで食事をしたい。ケーキを食べながらプレゼント交換して、表参道のイルミネーションの前で写真を撮りたい。でも、今年もきっと叶わない。近くにあるのに届かない、あたりまえの幸せ。

小学生のとき「友達の顔を描く」という授業があった。みんな画用紙にたくさんの顔を描いた。僕も負けじと、クラスメイトと、これから出会うさまざまな国の友達を描きたくて、黒髪の人、金髪の人、茶髪の人をたくさん描いた。

数日後、職員室に呼び出され、なぜこんな髪の色にしたのかと叱られた。保健室で色覚検査をさせられ、先生の前で全員の髪を黒く塗りつぶすよう指導された。納得いかなかったから、わざと雑に塗った。女の担任は満足そうにそれを確認すると、その絵を、クラスメイトと並べて教室のうしろに貼り出した。

腹が立つよりもなんだか怖くて、何も言い返せなかった。以後、学校での行動や発言に気をつけるようになった。自分にとってはあたりまえでも、人と違うことをしちゃいけないんだと学んだ。ときどきふっと思い出す、思い出したくもない、昔のこと。

昨日、産まれたばかりの赤ちゃんに会いに友人宅を訪れた。大人になってわかったけど、家庭をつくるって簡単なことじゃない。僕たちの世界ではなかなか叶えられないことだから、あたりまえに見える生活がとてもまぶしかった。

この子が成人して、いつかお父さんと一緒にうちのバーに遊びに来てくれたら嬉しいなと思いながら、抱っこした。

ようやくバーのオープン目処が立ってきた。お店の中での「あたりまえ」は僕が作っていかなきゃならない。もうすぐ新しい年がやってくる。明日から少し、欲望をだしていこう。

 


著者プロフィール

月刊連載『外苑前マスター(まだ準備中)のひとりごと。』毎月15日公開
icon_saeki佐伯 貴史(さえき たかふみ)

コーヒー会社で営業を経験後、雑誌の編集に興味を持ち『R25』『ケトル』等の媒体に携わる。いま、外苑前にバーを開くための準備を進めている。歌と本と旅と人が好き。餃子は酢とコショウで食べるのが好き。