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「コーヒー休暇のススメ」

フィンランドは、世界で一番コーヒーを飲む国だといわれている。
これだけを聞くと、フィンランドのコーヒー事情が、あたかも世界の最先端を行っている印象を持つ人も多いはず。

コーヒー大国なんでしょ?1日に、ひとり平均7~8杯は飲むんでしょ?
じゃあきっと、豆の焙煎は世界最高レベルだし、抽出方式も最新なものが次々と注目され、国中の人がカッピングとかできちゃったりするわけ?

うむ。

正直、コーヒーの味だけについて言えば、日本で飲むコーヒーの方が遥かに美味しい。(あくまでも私の個人的な感想!フィンランドの皆さん、ごめんなさーい!)。

日本人が持つ味覚の敏感さや嗅覚の鋭さは、「こだわり」という独特の文化を生んでいる。
特に、コーヒーに関する「こだわり」の強さは、本屋にずらーっと並んでいるハウツー本の多さからも垣間見ることができる。

そう。
「こだわり」

日本人は、この「こだわり」という響きに自然と惹かれるし、この言葉自体をつい簡単に使ってしまう傾向があるのかも。
「こだわりの店」とか、「こだわりの1品」とか、「こだわりが分かる男」とか。
そういえば、「こだわり」って、英語では何て言うんだろう?
まあ、そんな私のカフェでも、
美味しいコーヒーについては、ずっと「こだわり」続けているわけで。

じゃあ、味自体にさほどこだわりを持たないフィンランドが、どうしてコーヒー消費量世界一なの?
その答えは、実にシンプルな理由だったりする。

まず、1回に飲む量が多い。
大きいマグカップで、た~っぷりと飲む。

そして、コーヒーを飲む回数が多い。
朝起きて、通勤の途中で、仕事先で、帰り道で、帰宅後に、夕食後に。
誰かとともに、誰かを招いて、ひとりの時間に、愛する人と、街で、森で。
1日に何度もコーヒーを飲む。

この回数の多さと心地よい生活のリズムは、「コーヒーと過ごす時間」そのものを大切にする、フィンランドの国民性が自然と作り出しているように感じる。

例えば、
「1日に2回以上のコーヒー休憩時間」が、会社の規則にきちんと設けられたりしているのも面白い。
コーヒー片手に仕事に追われ、熱中しすぎて後半のコーヒーは飲まずに終わっちゃった、なんていう我々の過ごし方とはちょっと違うのだ。

だからと言って、「コーヒーを飲む」行為自体は特別なことではなく、歯を磨いて顔を洗うくらい日常的なことであり、日々繰り返される当たり前の習慣に過ぎない。

大事なのは、その「コーヒーと過ごす時間」をきちんと楽しむことにある。

どういうわけか私には、彼らがコーヒーと過ごすその時間が、コーヒーブレイクというよりも、コーヒーと過ごす「小さな休暇」という印象を受ける。

その休暇を1日の中に7度も8度も、ごく日常的に作ることができるフィンランドの人たちの潜在能力を、私はとても尊敬しているし羨ましくなったりする。

だからこそ。

もし、フィンランドに行く機会があったら、まずはカフェに入ってみよう。
どこでもいい。
まずはコーヒーを1杯、頼んでみよう。

ちょっと酸っぱくて濃い目のコーヒーを口にしながら、その日1回目の「小さな休暇」にゆっくりと身をうずめてみよう。

もうそこには、ウンチクもハウツーも必要ない。
コーヒーは、ただのコーヒーで充分になっているはず。
それこそが、フィンランド流の「小さなコーヒー休暇」なのだから。

 


著者プロフィール

月刊連載『旅のち、たびたび北欧へ』毎月16日公開
prof_shiho伊藤 志保(いとう しほ)

カフェ「istut」のオーナー&厨房担当
自らが買付ける北欧ヴィンテージショップ「2nd istut」も営む
古いモノ、ヨーロッパ、蕎麦、ワインが好き
1969年生まれ 長野市出身