title_simizu

月の本棚 一月 美食と嘘と、ニューヨーク

美食、嘘、ニューヨーク。おもしろそうなキーワードが並んでいるが、原題は”Food Whore”。
Whoreは売春婦、サブタイトルが「おいしいもののためならなんでもするわ」だから、誤解されてしまいそうだが、これはフードライターになる夢を叶えるために奮闘する、22歳のティア・モンローの物語だ。

ティアは学生時代、入院中の祖父のためにクッキーを作る。そのエピソードとレシピが当時のニューヨーク・タイムズの編集者、ヘレン・ランスキーの目にとまり、記事として大きく取り上げられた。以来、ティアが目指すのは食べ物と書くこと、そしてヘレンとなった。

ティアは大学院に進み、現在は料理本に携わるヘレンのもとでインターンとして働きたいと望むのだが、その懸命さがあだとなってとんでもないことに巻き込まれてしまう。ニューヨーク・タイムズのレストラン批評で絶大な影響力を持ち、業界に君臨するマイケル・サルツの策略だ。

もしも、最新・最先端のレストランの料理を常に体験できるとしたら。そのためにバーグドルフ・グッドマン(5番街にあるラグジュアリーなデパート)で、服や靴やバッグを好きに買えるとしたら(今は友人が薦める服を友人から借りてレストランに行く野暮ったいティアである)。もしも、かのニューヨーク・タイムズのレストラン批評に自分の言葉が掲載されるとしたら……!

ただしそれらはすべて、自分のアイデンティティと引き換えになる。

上等な服で見違えるように変身して周りの人に一目置かれるくだりは映画『プリティ―・ウーマン』でも『プラダを着た悪魔』でも痛快なシーンだった。変身って女心を刺激するなぁ……と映画を観るように読んでいたが、この小説、既に映画化が決まっているらしい。

思わずゴクリと唾を飲むのは、ガストロノミーレストランでの食事のシーンでも新進気鋭の美しいシェフに誘惑されるシーンでもなく、ティアがマイケルの奇妙な部屋に呼ばれて秘密を明かされ、悪魔の取引を決意する時である。誰にも話せない秘密。そして大きな代償。そこからはまるでジェットコースターのようで、一気に読めてしまった。

一から出直したティアは、ついに憧れのヘレンと会う。つまづいた時も見守ってくれた友達のおかげだ。ヘレンはパンの本を制作中で、そこからまた夢のような展開がある。今度は悪夢じゃない。

ジェットコースターのような小説を閉じてほっとする。地上って、いいな。本当の友達って、有り難い。

c_mihoko12
『美食と嘘と、ニューヨーク』ジェシカ・トム著 小西敦子訳(河出書房新社2016)


著者プロフィール

月刊『月の本棚  清水美穂子のBread-B』毎月24日公開
icon_shi 清水美穂子
ライター・ブレッドジャーナリスト

普段はBread+something good(パンと何かいいもの)をテーマに執筆・発信していますが、ここではBread-B。Bを外してしまって、Reading周辺のsomething goodを書いていきたいと思います。
All Aboutパン
Bread Journal
Bread Journal Facebook
Let’s ENJOY TOKYO