フィルターバブルの向こう側

バブルというと、日本社会では高度経済成長期やリーマンショックのお金のバブルが思い起こされるでしょうが、今話題の「バブル」は少し趣きが違います。

ポスト・トゥルースという流行語をご存知でしょうか?

これは、世界最大の英語辞典であるオックスフォード英語辞典が2016年の「ワード・オブ・ザ・イヤー」に選んだ言葉で、その意味は、アメリカやヨーロッパでの政治的な番狂わせを背景に、「世論形成において、客観的事実が、感情や個人的信念に訴えるものより影響力を持たない状況」だそうです。

つまり、従来の常識であったEUの結束がイギリスの国民投票で破られたり、2期続いたオバマ退陣後のアメリカ大統領をヒラリー・クリントンでも他の共和党候補でもなく不動産王のドナルド・トランプが選挙で継いだりと、結果はどうあれ、体制側のあり方や常識が大衆の多数決による「民意」に覆されたのが去年でした。

もちろん、良きにつけ悪しきにつけ、革命と呼ばれる行為にはお祭りの熱狂が付きものであり原動力ですらあるでしょう。

しかし、今回がほかと違うのは、まず、欧米各国でのポピュリズム的な新しい政治上の動きが、反グローバリズム(ヒト・モノ・カネ・情報のボーダレスな過剰流動性への強い反発)という旗印では一致していること、つまり、先進国内の「革命」がなにやら世界的な潮流と連動しているように見えること。

これは、今の「革命」を、ヒトのグローバリズムで割を食っている先進国内の中間層が主導している事実からも明らかです。

というのも、ボーダレスなヒトの移動は労働者の移動を意味し、貧しい国の働き手をより良い条件の雇用機会に繋げ、先進国内の企業をより安価でマジメで場合によっては優秀な人材獲得に結び付けるからです。(EUではこれが東欧諸国から英国への移動として起こりました)

また、モノと情報のグローバリズムは同時に、製造工場の海外移転や外国の委託会社へのアウトソーシングとしてより安価な労働力を先進国内の企業にもたらしました。(トランプ大統領がTwitterの「口撃」で抗っているのはこの雇用喪失です)

いずれの場合も不利な状況に追い込まれるのは国内の平均的な労働者で、労働市場でより厳しい競争を強いられるようになった先進国内の中間層が今回の「革命」の支持基盤と考えられています。

そしてもうひとつ、今回の「ポスト・トゥルース」が他と違うのは、私たちのSNSをいちばんの舞台にしていたことです。

人間の脳には、自分が信じたいものを信じようとする傾向、社会心理学や認知心理学でいう「確証バイアス」という情報のフィルタリング機能が備わっています。

たとえば、幽霊の存在を信じるひとは、心霊写真や体験談といった肯定的な情報を好んで集めはしても、心霊現象を科学的事象として解釈する自説に否定的な情報は無視するでしょう。

逆の立場のひとにも同じことは言えて、彼らは心霊現象や超常現象の類の話を「オカルト」として歯牙にもかけないでしょう。

つまり、私たちは自分の考えには反証を探して常に「仮説」に留めなければいけないところを、むしろ逆に自説を補強する情報を探して「信念」に変えてしまう傾向があるのです。

厄介なのは、脳がラクをするためのこの情報フィルタリング機能がSNSにも実装されており、私たちの情報体験が安寧の「バブル」に閉じ込められていること。

たとえば、Twitterではフォロー・アンフォローが常に自由で、タイムラインに流れてくる情報元をコントロールできる上、ブロック・ミュートを使えばいつでも特定のユーザーのつぶやきを視界から半永久的に手動で消すことができます。

Facebookはもっと手が凝っていて、私たちが見るべき情報とそうでない情報とをクリック数や滞在時間などから自動で判断しています。

友人知人のあれしましたこれしました報告にあまり興味をもてない私は、4、5年前からメモ代わりも含めて1000以上のFacebookページにイイねを押して、少しでも興味があるさまざまな分野の情報のるつぼにフィード欄を変えていたのですが、この1、2年で急速にアルゴリズムが改善されたのか、私がセレクトした種々雑多な情報元のシェアではなく、そのうちの30~50程度に情報元が限られるように自動編集されています。(だから、物理学関係の情報が少ないなと思えばその関連ページの投稿にたくさんイイねを押して手動で「自分の好み」を調整しなくてはいけません)

今回のアメリカ大統領選挙でいえば、当然、ヒラリー支持者は「自説」に有利な意見や左派系のニュースサイトを熱心に読んでイイねを押したことでしょう。

すると、Facebookのアルゴリズムはこのユーザーの見るべき情報とそうでない情報とを自動判断し、そのひとの「好み」に適った情報を優先的に表示するようになります。

結果、人間の確証バイアスに基づき、ユーザーは気付かぬうちに「自分の好み」と推定された情報にだけ囲まれるようになります。これが、フィルターバブル。

私たちは同じ世界や社会を生きているようで、実は全くちがう「現実」を脳やアルゴリズムの編集の上で生きているのです。

今回ご紹介するのは、今の米国HIPHOP界の頂点に君臨する Kanye West です。

有名ミュージシャンやセレブリティが軒並み反トランプを唱えるなか、彼だけはトランプ新大統領を支持し、面会を果たしたのですが、その後はいかに?

京都スタッフ 緒方勇人
http://engineerism.com/