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2月 板チョコ

 2月は、街を歩いても地下鉄や電車に乗っても、一年でいちばんチョコレートという文字や写真を目にする季節なので、いつにも増してチョコレートについて考えてしまう。
 チョコレートはやっぱり板チョコだよとカミさんに言うと、大概の男性はそう考えるだろうけれど、女性はやっぱりいろんな味が楽しめる箱入りのアソートのほうが好きだと思うよと、彼女が答えたのは数年前のことだった。ところが最近は板チョコも流行っているらしい。そもそも「板チョコ」なんて古臭くて野暮な呼び方はもうしないようで、いまは「タブレット」と言わなければ通じなさそうなのだ。ぼくはタブレットと聞くとまず iPad が頭に浮かぶ。
 週末によく散歩する東急本店通りの外れのほうにチョコレート専門店があって、甘いものが欲しい時に併設されたカフェ・コーナーに寄っていく。ぼくはいつもスパイシーなショコラショーを頼むが、カミさんはチョコレート各種が少しずつ食べられてお茶もついているセットなどを頼んだりしている。何を頼んだ時だったか忘れてしまったが、お茶請けなのかサービスなのか、板チョコの1片がついてきて、それがイチゴ味だったことがあった。
 イチゴとミルクの組み合わせは、何となく子供の好物というイメージが強く、自分自身も考えてみればイチゴは大人になってからあまり食べなくなった。子供時代にあれほど大喜びしていたイチゴだけれど、イチゴが好きだったのか、そこにたっぷりとかけるコンデンスミルクが好きだったのか、いまとなってはどうも判然としない。イチゴ味の板チョコのサービスは、だからそんなにありがたいとは思わなかったのだ。ピンク色をしているというのもちょっと気に入らない。ところが、すごく美味しいから食べてみてとカミさんが言う。不承不承、口に放り込んだらたしかに美味しかった。
 お茶の時間が終わって会計をするついでに、いま食べたイチゴ味の板チョコを買って帰ることにした。この店の板チョコのパッケージには、味によって違う動物の絵が描かれていて、イチゴ味にはどの動物が割り当てられているのだろうかという興味もあった。箱にはプードルらしき犬の絵が印刷されていた。可愛いというよりもちょっと不思議な不気味さを持った絵で、箱全体のピンク色もキラキラ感がなくて渋い。並べられた他の板チョコの箱よりも、断然、ぼくの好みだった。それ以来、この店で板チョコを買うならイチゴ味と決めている。

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著者プロフィール

月刊連載『好物歳時記』毎月14日公開
icon_okamoto岡本 仁(おかもと ひとし)

ランドスケーププロダクツ
北海道生まれ。いろんな町をブラブラして、いつも何か食べてる人
と思われていますが、いちおう編集者です。
著者は『ぼくの鹿児島案内』『ぼくの香川案内』『果てしのない本の話』など。
雑誌『暮しの手帖』で「今日の買い物」という旅エッセイを連載中。