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十三杯目、僕と手紙とコースター

土曜日がまだ半ドンだったころ、家に帰るといつも、テーブルの上には、昼ご飯のお金と母からの置き手紙があった。鍵っ子だった僕は、それを読むのが楽しみだった。

手紙の返事を書こうと思いながら、時が過ぎてしまい、不義理を働いてしまった人がたくさんいる。手紙を書くのは好きなんだけど、書き始めるまでがとても遅い。

メールを使うようになってから、字が下手になった気がして、さらに遅くなった。手紙好きの筆不精って意外と多い気がする。

一見、野暮そうな男の人がとても綺麗な字を書くとドキッとする。大きな体躯そっくりの大きな字を見ると、なんだか微笑ましくなる。レジで領収書をもらうとき、アルバイトの女の子の字が美しいと、思わず口に出して褒めてしまう。

編集の仕事をしていると、ライターさんやイラストレーターさんから領収書をもらうことが多いのだけど、封筒に、一言手紙が添えてあったり、イラストが描かれてあったりすると、また一緒にお仕事したいなと思う。

バーのマスターの取り出したペンが、使い古されたモンブランやカルティエだったりすると、いただく領収書がちょっとありがたいものに感じるのはなぜだろう。

学生時代はよく手紙を書いた。週に3、4通は書いていた気がする。母親、友人、好きだった人、亡くなった祖母からもらった手紙は、捨てられずにとってある。

先日、引き出しを整理していたら、15年前に亡くなった友人からの手紙がでてきた。高校の時にちょっぴり好きだった女の子の文字は、とても懐かしく、その子が話しかけてくるようだった。そういえば、父から手紙をもらったことは一度もない。

文房具屋で試し書きをするときは、自分の苗字を書くのがいいと聞いたことがある。でも僕は昔から、好きな人の名前を書く。だから僕は、店員から見れば、そのときどきで、高橋さんだったり市川さんだったりする。

絵や写真や焼き物は、色気を感じるものが好きだ。「女を好きになったら、告白するんじゃなくて、口説け」なんて、誰かが言ってたけど、好きと書かずに口説けるような、色気ある手紙を書けるようになるころには、おじいちゃんになってる気がする。

先日、バーの名刺とコースターができあがった。紙のコースターは、使い捨てという部分でエコではないし、長い目で見ると布やラバーよりもコストがかかる。 でも、古典的だけど、気の合った客同士が電話番号やメールアドレスを書いて交換してくれたらいいなと思う。

気づかれなくてもいいから、コースターの裏側に、こっそりお客さんにメッセージを書いてみたりして。ひょっとしたらコースターは、バーの便箋なのかもしれない。

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著者プロフィール

月刊連載『外苑前マスター(まだ準備中)のひとりごと。』毎月15日公開
icon_saeki佐伯 貴史(さえき たかふみ)

コーヒー会社で営業を経験後、雑誌の編集に興味を持ち『R25』『ケトル』等の媒体に携わる。いま、外苑前にバーを開くための準備を進めている。歌と本と旅と人が好き。餃子は酢とコショウで食べるのが好き。