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“坂の街で王道”

最近、非常に真面目に仕事に勤しんでいる。カードを使ったのはいつだっただろうと考えた時、意外に遠い記憶で自分でも驚くけれど、それでもはっきりと覚えている皿がある。そう、神楽坂のフレンチだ。
店自体の歴史は古いが、山本シェフがオーナーになったのは8ヶ月ほど前という古くも新しくもある代がわり店。昔ながらの奥ゆかしい内装の中、繰り広げられる見目麗しい料理。その取り合わせに若干のギャップを感じることはあるもののミシュランの星が灯らないことが不思議なくらい芯のある素晴らしいフレンチなのだ。

まずは贅沢にアワビとキャビアのカッペリーニ。
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細かく叩いたアワビにキャビアの塩気のアクセント、そして花シソの香り。パスタには、ちょっとウルサイシェフだけにキリッとしまったカッペリーニの茹で加減は完璧。ゆっくりと味わおう、と優雅な気持ちで臨んでもアワビの食感が気持ちを煽る上に、ロゼのシャンパーニュも大喜び。食べにくい貝の器でなかったら恥ずかしいくらいに瞬殺だったはずだ。

そして私の好みの一皿。ストレートにコンソメ。ぴしゃり。かっこいい。
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こういう料理はさすがの一言に尽きる。白子、コンソメ、トリュフ、以上、なのだがコンソメの旨味が宇宙レベル。底力って、シンプルな料理に宿るのだよね。澄んだスープに厚みのある旨味が美しく並んでおり、その列は決して乱れることがない。飾り気のない皿に真の美しさが見えた時、それって本物じゃない?と思うのだ。いやぁ、美味しい。山本シェフが店の名前を変え、違う場所に移転したら、ミシュラン星が舞い降りるのではないかなぁ。新規の店は目が行きやすいけれど、昔からある店のフォローアップは難しいのだろうと思うし東京は分母が大きすぎる。。。なんて、ことはどうでもいいか(笑)。山本シェフの奇抜でこだわりの多い皿も個性的だが、こういうクラシックな基盤に惚れ惚れする。

安定のメインの後、最後のお楽しみは、この作りたてのミルフィーユだ。
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見た瞬間に受け入れざるを得ない正しさを人は「美味しそう」というのだろう。
新雪に新しい一歩を踏み入れた時のような「サクッ・・」と小さな音を立てて崩れる儚い層。気を許すとすぐに湿り気を帯びていく生命の短さを生かすも殺すも食べて次第となれば放置プレイは禁物。ベストな状態で美味しく頂かなくては。なるべく形のまま頬張って口の中でさくさくと砕けさせたいのが食いしん坊の欲望。クレームパティシエールのまろやか甘味を余すことなくパイに絡め、喉を通り過ぎたのち、私の内臓は甘美な喜びに震えるのだった。あぁ、、ダメだ、こうして書いていたら行きたくなった。しばらく外食していないから尚のことレストラン熱再燃。

今月後半の課題は楽しみのための時間を作る事。
と、ここに決意表明致します。

“神楽坂 フランス料理 ラトゥーエル”
http://www.tourelle.jp/


著者プロフィール

月刊連載『153.1 × manger』毎月18日公開
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東京生まれ、東京育ち。
いろんなコトしてきました的東京在住人。
主に食、ほか、アート、映画、ファッション、五感に響いたものを写真と言葉で綴ります。