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月の本棚 二月 月の裏側

満月でなくてもお月見をする。灯りを消した窓からしばらく月を眺める。
想うのは、いまここに居ない人たちのことだ。遠くに住む人や、昔の人や。

深夜。真昼のNYにいる友達とチャットする。「Babkaというパンはウクライナのあたりの言葉で“小さなおばあさん”という意味らしい」と彼は言う。「babaは、おばあさん」。その時、東欧と日本が繋がった。

昔、「有珠(usu)山」や「阿蘇(aso)山」が「灰(ash)」で繋がっていることを教えてくれた先生がいた。1万数千年以上前にはもっと、さまざまな地域と繋がっていたはずだ。

そんなとりとめもない夜には『月の裏側』を読む。世界に散らばる神話の主題を比類のない技法で繋ぎとめている古事記と日本書紀の話にぞくりとする。

フランスの社会人類学者で民族学者のクロード・レヴィ=ストロースはこの本で、日本文化の興味深い側面について解説してくれている。なにも外国人に教えてもらわなくてもよさそうなものだが、外からの視点でないと持てない情熱や見え方もあるのだ。

テレビ番組でも、日本を訪れる外国人が何をしに来て何に驚いたり興味を持ったのか、外の視点から日本を紹介するものが流行っている。それは私たちの視界を広げてくれる。

月や太陽を「お日さま」「お月さま」と「さま」付けで呼ぶのは日本人だけと聞いたことがあるが、この本にもあらゆる存在に霊性を認める日本人の民族性について記されている。道具に話しかける職人も、そのひとつの例だ。

料理も、デザインやアートも、日本人ならではという話と、遠い異国と繋がっているという話が交錯する。違いを知り、繋がっていることも知る。それはいいことだ。

「遠い過去に、日本はアジアから多くのものを受け取りました。もっと後になると、日本はヨーロッパから、さらに最近では、アメリカ合衆国から、多くのものを受け取りました。けれども、それらをすべて入念に濾過し、その最上の部分だけを上手に同化したので、現在まで日本文化はその独自性を失っていません。にもかかわらず、アジアや、ヨーロッパや、アメリカは、根本から変形された自分自身の姿を、日本に見出すことができるのです。
なぜなら今日、日本文化は東洋に社会的健康の模範を、西洋には精神的健康の模範を提供しているからです。今度は借り手の側になったこれらの国々に、日本は教訓を与えなければならないのです」

さまざまな種子が詰まったライ麦パンのような本だと思った。濃厚で、一気読みができない。薄切りにしてゆっくり味わったらいいと思う。もっと先へ行きたくなるかもしれないし、太古の人々に想いを馳せながら、月など見上げてぼんやりしまうこともあるかもしれない。

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『月の裏側 日本文化への視覚』クロード・レヴィ=ストロース著 川田順造訳 (中央公論新社2014)


著者プロフィール

月刊『月の本棚  清水美穂子のBread-B』毎月24日公開
icon_shi 清水美穂子
ライター・ブレッドジャーナリスト

普段はBread+something good(パンと何かいいもの)をテーマに執筆・発信していますが、ここではBread-B。Bを外してしまって、Reading周辺のsomething goodを書いていきたいと思います。
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