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“いつもそこにあるもの”

8年前に出会ってからいつ行ってもメニューは同じ。増えるどころか減っていたりもする。それでも通い続けたい店がここ。ランド地方の郷土料理が味わえるフレンチビストロ コム・ア・ラ・メゾンだ。
一人でふらっと行くのは大抵21時過ぎ。16席の小さな店の4席ばかりのカウンターに座れば頂くものは決まっている。

ワインはサービスの橋本くんにおまかせして、お約束はフォアグラのテリーヌアルマニャック風味。
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滑らかで、甘く、濃厚。下処理が凄まじく丁寧なのが手に取るようにわかる味わいの美しさ。雑味なし、旨味の上澄み。これは必食。

続いては一本でも焼いてくださるところが涌井シェフの愛。鴨の心臓の串焼き。
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チリチリ音を立てる危険なフライパンに横たわる一本の串。心臓を頂くから心に響くのか、問答無用に美味しい。テリーヌの幸せ感とはまた別格の説得力。ガーリックの風味が追いうちをかけ、噛む、弾む、香る。オーダーしない理由が見当たらない。

そしてスペシャリテ。これを目当てに来るといっても過言ではないスープ・ド・ガルビュ。
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白いんげん豆、カブ、ジャガイモや根セロリを煮込み、生ハムの骨の塩気がベースに息づいている。豆が主役でありながら味わいはボールド。ピマン・デスペレットをぱらりとやれば、あとはスープの海に溺れていいのだ。涌井シェフはこのスープを出すためだけにスープ屋をやろうと思ったと言っていたけれど、確かにこれとバゲットだけで十分に幸せになれる。スープが美味しい店というのはどうしてこうもカッコいいのだろう。肉や魚の美味しい店よりもぐっと来る。ちょっと魔法使いのイメージだ。液体の旨味は脳への浸透率が早く、深い。噛まないで感動って凄いことだ。豆のトロトロがノスタルジーを誘い、見知らぬ土地の料理を私の故郷の味と思わせる懐かしさはもう脳内どこでもドアである。

迷いに迷いながら他のものを頼んだことがないほどに大好きなデセール。
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キャラメルアイス。小さな皿には盛らず、存在感たっぷりの大きな皿に堂々と、それも焦がした強い苦味を狙った大人仕様。口溶けと甘味と苦みのバランスは子供よりも大人の琴線に触れ、甘ささえちょっと切ない。

飽きるほど通った訳でもないけれど、ふと帰りたくなる、顔が見たくなる。それはいつ行っても裏切らないものがそこにあるという確信から。クラシックな料理のどれ一つ取っても時が止まっていない。今、美味しいと感じられる味わいが嬉しい。シェフのお人柄と、橋本くんの表現ベタな温かいサービス。小さな16席の食卓には、どのテーブルにもコム・ア・ラ・メゾン愛が溢れている。
最後の幸せは焼きたてのカヌレ。ぜひお店で。

“コム・ア・ラ・メゾン ”


著者プロフィール

月刊連載『153.1 × manger』毎月18日公開
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東京生まれ、東京育ち。
いろんなコトしてきました的東京在住人。
主に食、ほか、アート、映画、ファッション、五感に響いたものを写真と言葉で綴ります。