title_simizu

月の本棚 三月 少年民藝館

カフェの本棚で出合ったその本は、長いこと絶版になっていたのが2011年に再版されたものだった。さまざまな民藝品が少年、つまり若い人にもわかりやすいように紹介されている。吉之介さんという明治の人の、やさしいけれどきっぱりとした言葉で。

民藝は「民衆的工藝品」の略で、木やガラス、木綿、紙、鉄、ブリキなどを使ってたくさん作られて広まり、庶民の間で役立ってきた生活用品をさす。「威張らない美しさ」と吉之介さんは繰り返し言っている。民藝品は威張らない。儲けようとか飾ってもらおうと思って作られたものではなく、趣味のものでもない、堅実な実用品のことなのだった。

本の中でもし、こういうのが欲しい、と思うものがあったとしても、そこにメーカーはもちろん作者の名も書かれてはいない。作ったのは有名でない人たちで、価格も記されていない。『少年民藝館』ではまず、モノそのものの値打ちを自分でじっくりと見ることが大切とされている。

「手に取るようによく見て、その形、色、風情を感じ、その値打ち、美しさ、健康さ、たのもしさをよろこんで下さい。そして、そのような良いものを、昔も今も、名もない人々が私たちのために作っていることを尊び、名もない人々のうちにひそんでいる力を崇めて下さい」

眺めていると懐かしいような、怖いような心地になってくる。怖さは今ではもう手に入らないかもしれない、遺されたものの放つ、おごそかな感じのせいかもしれない。

宮島の硬い梅の木を刳りだした菓子鉢。青森の刺し子の風呂敷。北米の風見やパッチワーク。イタリアの着せ替え人形、チベットの毛布、インドの更紗、日本の絵馬や羽子板……それらはひっそりと、しかし堂々とそこにある。仙台の民家に伝わる朱色の木馬については、それに乗った子供のうれしさ、それにもまして楽しかったであろう作り手、すなわち親の気持ちが書かれているのに心打たれる。

30年くらい前に、アメリカ北東部の民藝に魅了され、この人生の後にも先にも一度きり、小さな店を開いた。遠い国の美しいものを譲り受け、譲り渡して行くのは容易なことではなく、ほどなくあっさり諦めたのだけれど。だから今でもこういうものを見ると気持ちが浮き立つのだ。やがて私は箪笥から古いきものを出してきて、それらに親しむ暮らしを始めた。

「ただもの知りになるのではなしに、このようなもの言わぬ友だちと一緒に暮らすことを励んで下さい。そうすると誰でも一生の間、日々を美しくよろこんで生きることができます」吉之介さんは言っている。

c_miho14
『少年民藝館』外村吉之介著(筑摩書房2011)


著者プロフィール

月刊『月の本棚  清水美穂子のBread-B』毎月24日公開
icon_shi 清水美穂子
ライター・ブレッドジャーナリスト

普段はBread+something good(パンと何かいいもの)をテーマに執筆・発信していますが、ここではBread-B。Bを外してしまって、Reading周辺のsomething goodを書いていきたいと思います。
All Aboutパン
Bread Journal
Bread Journal Facebook
Let’s ENJOY TOKYO