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第十五回 本業について

最近、カフェで働いている時間が増えた。
何度かこのコラムでも書いているが、僕のお店「SONGBIRD DESIGN STORE.」の2階には「SONGBIRD COFFEE」というカフェを併設している。
京都へ来る国内外からのお客様が年々増えていることに加え、いろんな媒体でご紹介して頂いたりして、元々の人手不足も重なって、今はほぼ毎日、2階のカフェでせっせとカレーを運んだり、コーヒーを淹れたりしている。
まさか、この歳になってカフェでこんなにも必死に働くことになるなんて思ってもいなかったけれど(笑)、まあ有難い話である。

思えば、独立して物件を借りて、デザインの仕事や家具のお店を始めようと思った時、家具をゆっくり体感してもらうためにコーヒーでも出そうかと考え、2階の端っこで5席ほどで始めたのがSONGBIRD COFFEEのスタートだった。嬉しいことに、お客様も徐々に増え、それに伴い席数も拡大し、今では2階をほぼ占めるまでになった。
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オープン当時のSONGBIRD COFFEE

それでも、実は「あくまで本業は家具やデザイン」という意識というか変な拘りのようなものがずっとあった。

だから、最初の頃はカフェだけの取材だったりするとちょっと落ち込んだり、初めて会う人に「カフェのオーナーさんなんですね」なんて言われたりすると、「いや、本業はデザイナーなんですけどね」という自尊心むき出しのリアクションをしていた。・・・若いですね。

そんな時、自営業の大先輩との会話で何気なく「カフェ流行ってるねー」と言われた時も「本業は、こっち(家具やデザイン)なんですけどねー」と卑下気味に返したら、「いや、カフェも本業でいいでしょ。今、ここにいる人はカフェに来てくれてるんだし」と、さらっと言われた。
その通りである。自分の浅薄さをずばりと指摘されたようで、すごく恥ずかしかった。

ずっと、何かを肯定されることは、違う何かを否定されることだと思っていた。
どこかで妻がメインでやっている「カフェ」が注目(肯定)されることは、自分がやっている「家具やデザイン」が無視(否定)されることだと拗ねていたのかも知れない。これは格好悪すぎる。
それに、そんな意識でやっているカフェを目指して来てくれるお客様にとても失礼である。ここでコーヒーを飲んだり、カレーを食べたりして楽しく時間を過ごしてくれている人たちにとって、僕のちっぽけな拘りなんて、あまり関係ないのである。

それからは、自分がやっている事はどれも本業だし、それは来る人や関わった人が決めることだと思えるようになった。
ある人にとっては家具のお店、ある人にとってはデザイン事務所、ある人にとってはカフェ、ある人にとっては珈琲のお店、ある人にとってはカレーのお店、ある人にとっては散歩のついでにただ立ち寄る場所・・・。
よく考えたら、そういう場所にしたくて、自分にはちょっと不相応なビル一棟を借りて、色々な事を始め、色々な人の力を借り、色々な可能性を試してきたのだ。

今では、お店の前で「ここカレー屋さんですよね」と尋ねられても、食い気味に「はい!そうですよ!」と言えるようになった。
加えて「さらに、コーヒーも凄く美味しくて、使ってるテーブルや椅子もオリジナルで、家具のオーダーも出来ますよ。あ、雑貨も少しあります」と、畳み掛けるように言えるなんて、なんという成長か。笑

とはいえ、現在2階のカフェは圧倒的に「カレーのお店」と思われているので、もう少し「珈琲のお店」と思ってもらえるようにしたいというのが今の目標。
素晴らしい4人の焙煎人にお願いしている珈琲豆は本当に美味しいし、ちゃんと真面目に1杯1杯ドリップしている。高いカウンターで見えないけれど。

ということで、いまいち使い途に困っていた1階の階段下のスペースで、近いうちにコーヒーのテイクアウトをコソコソ始めようかと試行錯誤中である。
「コーヒースタンド」と言ってしまうのは、ちょっと気が引ける。ただ、ずっとカウンターの中でやってきた’’本業’’の一つを、たまに見てもらえる場所になればいいなと考えている。
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著者プロフィール
月刊連載『月刊 唄鳥』毎月5日公開
icon_songbird徳田 正樹
インテリア・プロダクトデザイナー
SONGBIRD DESIGN STORE.」代表

京都生まれ。大学卒業後、内装会社勤務を経て、1999年「IREMONYA DESIGN LABO」の立ち上げに参加。その後、2008年まで同社のデザイナーと代表を務める。2008年退社後、Masaki Tokuda Design.設立。2009年に、京都でカフェを併設したインテリアショップ「SONGBIRD DESIGN STORE.」開業。