bn_shiho

「心を豊かにしてくれるモノ」

無類の洋服好きなこの私が、新しい洋服を買わなくなった。

今、着ているこのパーカーを買ったのはいつ?
たしか、15年前。
過酷な旅で数えきれないほどの洗濯をしているのに、
どこも傷まずに着心地抜群だ。

ちなみに今、履いているこのデニムは、いつだっけ?
あ。
これは、古着屋で見つけたリーバイスREDのメンズモノ。
見つけたのは、たしか、7年前。
7年間履き込んで、REDならではの良い風合いが更に増してきている。

この仕事をしていると、
「よそ行きの服」を着る機会が、ほとんどない。

今の私にとっての洋服とは、
厨房で着やすくて、激しい洗濯に耐えられて、
オシャレな気持ちで長く着続けられるものかどうか。

ということで最近は、
「ソースの跡が残ったり漂白剤が飛んだとしても、
それすらが味となる、カッコイイ古着」
を、探すことが多くなった。

安い古着だからとたくさん買うわけではなく、
よーく吟味をして、本当に長く着たいかどうかを考える。
その古着に、店主のセレクトのセンスを感じられるかどうかも考える。

素敵だなと思える背景が見え、ソースも漂白剤も似合うぞと思えた瞬間、
「これだ!」という嬉しさで、ようやくその古着を買う。

Exif_JPEG_PICTURE

日用品や家具についても、同じような想いを持つようになった。

安い新品モノを大量に買って使い捨てる生活よりも、
価値のある古い器や家具をジックリと見極め、少しだけ購入し、
長く長く愛用する。

それがどんなに古くて、使用感があろうとも、
ヒビや欠けや傷があろうとも、
圧倒的にそっちの方がいい。

デザイナーの想いや、
その想いを受け継いで作り続けてきた職人たちの想いが、
キチンと乗っかっている器がいいし、椅子がいいし、花瓶がいい。

そう思うようになってから、
部屋がモノで溢れかえることがなくなり、暮らしが実にシンプルになった。
そして生活そのものが、驚くほどに彩り豊かな時間へと変化した。

どうやら近ごろの私は、
欲しい欲しいと先端のモノばかり探すことを、やめてしまったらしい。

Exif_JPEG_PICTURE

実は、フィンランドの人も、
モノに対しての考え方がこれと近く、新しいモノをあまり買わない。
そもそも何かを買うことに対してとても慎重で、深く吟味をする。

Exif_JPEG_PICTURE

長い時を経て使用してきた大切な日用品に対して、
フィンランドの人たちは、
高い誇りを持っているし、深い愛情を持っている。

お婆ちゃんの使っていたモノが、時を経て孫の手に渡り、
それもやがて手放すという時が来たら、
「これは本当に良いモノなのよ」と胸を張って、
次に使いたい人をマーケットで探す。
生地も、フォークも、器も、家具も。

c_istut04-4

いいなあ。
こういうのって、すごくいいな。

私が、フィンランドのヴィンテージ雑貨に興味を持ち、
この仕事に本腰を入れたいと思ったのも、
「フィンランドの人たちのモノへの考え方が、すごく好きだなあ」
って、心から思えたことがキッカケだ。

だから、やみくもに、
「オシャレだから」「有名だから」「売れそうだから」という視点で、
ヴィンテージ品の買付けはしないようにしている。

いったいどんな暮らしの中で、
どんな人たちに愛されてきたのだろう?
と、想いを馳せることができるモノかどうか。

そして、
いったいどんな人によってデザインされ、
どんな背景を持って今、ここにあるのだろう?
と、想いを馳せることができるモノかどうか。

これらを譲れないポイントに置いて、仕入れを行う。

c_istut04-5

あ。
もちろんこれは、
あくまでもこちら側の想いに過ぎない。
だから、
それらを実際に手に取り、使おうとしてくれている人に、
こちらの想いを強いたりはしない。

単純に直感で「素敵!」と思ってもらえることが、イチバン嬉しいし、
その人の自由な発想で長く愛用してもらえれば、もう最高すぎる。

そんな「縁」を自分の手で作ることができる。
これこそが、古いモノを仲介する仕事の醍醐味だと思っている。

c_istut04-6

そして今日も私の目の前には、
遠くフィンランドから海を渡ってここまで辿り着いてくれた、
古くて美しい日用品たちが、じっと静かに佇んでいる。

これらが生まれた背景を調べ学び、
これらを生み出したデザイナーたちの想いを探り知る作業は、
私のハートを容赦なく盗み、キュンキュン揺さぶり続けてくれる。
そして、ついつい呟やかずにはいられなくなる。

「まったくもー!罪なヤツー!」

 


著者プロフィール

月刊連載『旅のち、たびたび北欧へ』毎月16日公開
prof_shiho伊藤 志保(いとう しほ)

カフェ「istut」のオーナー&厨房担当
自らが買付ける北欧ヴィンテージショップ「2nd istut」も営む
古いモノ、ヨーロッパ、蕎麦、ワインが好き
1969年生まれ 長野市出身