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4月 蕗の薹(フキノトウ)

 いま好物と思っている食べ物には、子供時代は見向きもしなかったものがわりと多い。その代表はカスベ(エイ)。学校から家に帰り、戸を開けた瞬間にカスベの煮付けの匂いがしたら、必ず「なんだ、今日はカスベかよ」とテンションが下がった。その記憶があまりにも強くて、最近までほとんど食べなかったのだが、去年の夏に北海道で、知人の料理家がつくったカスベのレモンバターソテーを恐る恐る口に入れた瞬間から、カスベに目覚めた。いろいろな味がマイナスからプラスに転じるのに、年齢が大きなファクターのひとつであることは、たぶん間違いない。
 18歳まで北海道に住んでいた。その年齢では美味しさを理解できなかった食材がたくさんある。その代表は山菜。苦いのがダメだった。山菜の煮物が食卓にあると「肉を食わせろ!」と心の中で叫んだ。山菜が美味しいものだと思うようになったのは、やはり日本酒が飲めるようになって、肴として天ぷらで食べるようになってからだろう。
 いまちょうど北海道に来ているのだが、札幌の大通り公園の雪もほぼ消えている。雪が溶けてところどころに地面が顔を出す季節、いちばん早くに土中から出てくるのがフキノトウだ。春の到来を告げる嬉しい食べ物のはずなのに、やっぱり好きになれなかった。どくとくのエグさが苦手と感じたからだろうか。それとも母親のアク抜きが適当だったからだろうか。
 だいたいこの季節になったらアレが食べたいとか、子供時代は考えたこともない。一年中、カレーライスやハンバーグやトンカツが良かった(わりといまだにそう思っている部分もあるのだが)。それが、どうだろう、4月に北海道に居合わせたのだから、どこかでフキノトウを食べたいなと思う自分がいる。歳をとるって悪くないね。
 何軒か食事処に行き、品書きにフキノトウがないか探してみたが、そのものを出す店はなかった。でも、香りとか味のアクセントとしてフキノトウを上手に使った料理をいくつか食べることができた。たしかにフキノトウの味が、その料理全体をより美味しいものにしていると感じられる。フキノトウ味噌でも買って帰ろうかなと思ったりもした。あとは、フキノトウ探しの過程で「アズキ菜」という山菜をおでん屋で知り、思わずメモを取った。アズキ菜は北海道以外では「ユキザサ」と呼ばれているらしい。4月上旬あたりからほんの短い期間にしか食べられないそうだ。写真は「北寄貝とツブ貝とフキノトウ味噌の和え物」。ピンボケでごめんなさい。ああ、来年も同じ季節に北海道に来たいなァ。

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著者プロフィール

月刊連載『好物歳時記』毎月14日公開
icon_okamoto岡本 仁(おかもと ひとし)

ランドスケーププロダクツ
北海道生まれ。いろんな町をブラブラして、いつも何か食べてる人
と思われていますが、いちおう編集者です。
著者は『ぼくの鹿児島案内』『ぼくの香川案内』『果てしのない本の話』など。
雑誌『暮しの手帖』で「今日の買い物」という旅エッセイを連載中。