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月の本棚 四月 言葉が鍛えられる場所

詩の集まりに出たり、詩人に写真を提供したりしているというのに、詩とは何か実はよくわかっていなかった。でもこの本を読んでいたら、あぁそうか、と思ったことがいくつかあった。

詩とは目に見えないものを、他人に見させる術だ。見たひとは気がつく。今ここに見えるものが、見えないものによって成り立っているということに。ちょっと、難しい?
たとえば、こういうことなのだ。今ここにいるわたしたちは、見えない過去の堆積で出来ているのだ。詩はふとそんなことに気づかせてくれる。なんだか月を見上げている時のように、途方もない気持ちになってしまうんだけれど。

『言葉が鍛えられる場所』は詩のほかに映画、社会問題などを取り上げたエッセイだが、そこに在る言葉について、表面上の意味とは別に、隠蔽(いんぺい)されているものがあるとして、それが何なのかを読み解いていく。

言葉が隠しているものに目を向けるなんて、探偵みたいだ。でも、だとしたら、わたしはインタビューをする時、そうした感覚を働かせることがある。言葉は、発せられた文字通りの意味とは別に、発したひとのこれまでの人生や、現在の心身の状態や、願望なども表すことがあるから。未知の相手を理解しようと思えば、言葉に慎重になっていく。それは、言葉が鍛えられる場所かもしれない。

話がそれてしまった。

本の中で、今上天皇の沈黙の言葉について書かれたくだりがあって、心を打たれた。言論の自由は、すべてのひとの上にはなかったと知った。でも、語られなかった言葉が表すものが、語られた言葉より多くの事実を表すことがある。行動が言葉の代わりになる。

逆に、事実でないことを雄弁に語るひとがいる。虚偽であってもそのひとにとっての真実かもしれないし、わかっていながら同調者の受けを狙っているのかもしれない。自分を肯定し、他者を打ち負かす道具として使われる言葉。そのぞんざいな使われ方に作者は怒りをおぼえていたが、言葉は気のようなものをまとっているので、文字通りの伝わり方はしない。そのことを、わたしはこの本に、あらためて教えてもらったと思う。

情報化した世界で、わたしたちは言葉の洪水の中に生きている。言葉を伝えるツールは進化しているのに、うまく伝わらず、ひとの伝達能力は退化しているように思えることもある。そんな夜更けに考える。わたしはいま、言葉が鍛えられる場所にいるのだと。

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『思考する身体に触れるための18章 言葉が鍛えられる場所』 平川克美著(大和書房2016)


著者プロフィール

月刊『月の本棚  清水美穂子のBread-B』毎月24日公開
icon_shi 清水美穂子
ライター・ブレッドジャーナリスト

普段はBread+something good(パンと何かいいもの)をテーマに執筆・発信していますが、ここではBread-B。Bを外してしまって、Reading周辺のsomething goodを書いていきたいと思います。
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