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「サーモン売り場のお兄さん」

フィンランドの人は、シャイで無口な人が多いと言われている。
私の出身地、長野県北信地方の人たちも、どこかシャイで無口な人が多い。

そんな気質が似ているからなのか、
私はフィンランドへ着くと、なぜか急にホッとして、
「故郷に帰って来た」
というキモチに包まれる。

でも、実際に、
フィンランドの人が本当に無表情でぶっきらぼうか、
と言われれば、決してそんなことはない。
長野の北信の人がみんな不愛想で人付き合いが苦手か、
と言われれば、決してそんなことがないのと同じで。

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そうそう。
いつだったか。
フィンランドの首都、ヘルシンキでこんな出来事があった。

物価が高いフィンランド。
滞在中の外食はなるべく避けて、
私はいつもキッチン付きのアパートで、自炊をしながら過ごす。

その日も、夕食の準備をしようと、
スーパーへ出向き、サーモン売り場をウロウロとしていた。

やはり、北欧のサーモンは美味しい。
日本の鮭も美味しいけれど、
北欧のサーモンには別格の旨みがあるし、
様々な部位が、豪快に売られているのも面白い。

自炊と言ったら、サーモンなのだよ~♪
サーモン、サーモン、美味しいサーモ~ン♪
ついつい歌ってしまうサーモン音頭(自作)で、売り場をジロジロ。

そんな私に、
売り場のお兄さんが、ニコニコしながら話しかけてきた。

「おススメのサーモンの食べ方を知っているかい?」

「ん?どんな食べ方なの?教えて!」

「まず、サワークリームと、フレッシュバジルと、黄桃の缶詰を用意する。
それをすべて混ぜ合わせてソースにする。
グリルしたサーモンに、そのソースをかけて食べる。
ただ、それだけ。
あ。塩とコショウは忘れちゃダメだよ。
すごく美味しいから、やってごらん!」

へー!

私は驚いた。

まずは、お兄さんおススメのソースの組み合わせに。
そして、お兄さん(フィンランド人)の豊かな社交性にも。

「うん!美味しそう!作ってみるー」

ということで、切り身を買うことにした。

するとお兄さんは、
サーモンを包んだ紙の上に、マジックで何かサラサラと書いている。
そして、ニッコリと笑って、
「エンジョイ!」とひと言。

手にした包み紙を見てみると、
サワークリーム、フレッシュバジル、黄桃の缶詰、塩、コショウ、
と書かれた、マジックの文字。

嬉しかった。

ゆっくりと瞬きをして、もう一度、お兄さんの書いた文字を見て、
「優しいなあ」って呟いた。

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部屋に戻り、お兄さんのレシピで夕食を準備。
これが、本当に美味しくて。

新鮮でジューシーなサーモンと、
甘酸っぱいソースとバジルが驚くほど相性バッチリ!
お兄さんの笑顔が、そのお皿にさらなる魔法をかけてくれて、
頬ッペタ落ちるし、目尻も下がる。

「今日はいい日だったなあ」と、
温かいキモチを噛みしめながらの夕食となった。

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フィンランドの人はシャイだけれど、親切な人が多いなあって思う。

もちろん世界中に、親切な人はいっぱいいるけれど、
多くの国を訪れてみて、つくづくそう思う。

地図を持って歩いていれば、
必ず「どこへ行くの?」「何か困っているの?」と声をかけてくれて、
探している住所まで一緒に歩いてくれる。

重いスーツケースを引きずっていると、
ササッと持ち上げてトラムに乗せてくれる。

押しつけがましさはなく、ものすごくさりげない。
そして、何もなかったかのようにササッと去ってしまう。

振り向くと、
「あれ?もういないし・・・笑」

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シャイで優しいフィンランド。
派手さはないけれど、ゆったりとした風が流れている場所。

やはり故郷の長野(北信)と、すごーく似ているんだよなあ。

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著者プロフィール

月刊連載『旅のち、たびたび北欧へ』毎月16日公開
prof_shiho伊藤 志保(いとう しほ)

カフェ「istut」のオーナー&厨房担当
自らが買付ける北欧ヴィンテージショップ「2nd istut」も営む
古いモノ、ヨーロッパ、蕎麦、ワインが好き
1969年生まれ 長野市出身