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5月 そうめん

 そうめんを「食べる」のに季節を考えることはあまりないけれど、「流す」となると話は別である。
 鹿児島に通い始めた頃に連れていってもらった指宿の唐船峡というところで、そうめん流しをはじめて体験した。何年前だったろうか。半分に割った竹製の樋に水が流れ、滑り落ちてくるそうめんを箸で受け止めて食べるという、ニュース映像などで見知った風流なあれだなと思いながらついていった。でも友人は「流しそうめん」ではなく「そうめん流し」と呼んだ。ところ変われば名前も変わるのかと、あまり気に留めずに聞き流していたが、違うのは呼び方だけではなかったのだ。
「唐船峡そうめん流し」と書かれた大きな門をくぐると、すぐに下り階段がある。空気がだんだん冷んやりしてきて、階段の先は渓谷なんだろうなと想像が膨らむ。下りていった先には、渓流だけでなく体育館のような建物があった。入り口でまず食券を買う。そして中に入って驚いた。カフェテラスのように丸いテーブルとベンチがずらりと並んでいて、家族連れが何組もテーブルを囲んでいた。テーブルの中心にはたらい状の器械が置いてあり、まるで洗濯機のように水がくるくると渦を巻いていて、白いそうめんが勢い良く回転している。竹の樋はどこにもなかった。
 回転式のそうめん流し器は、指宿・開聞町の特許なのだそうだ。天然の冷たい湧き水を利用して、くるくる回転する水にそうめんを入れる。当然、そうめんもくるくる回転し始めて、それを箸ですくってつゆに浸けて食べる。これがとても楽しかった。そうめんをそのまま食べるならただの食事だが、流した途端にそれはエンタテイメントに変わる。しかも場所が渓流の近くなのでとても涼しい。鹿児島では、ちょっとでも暑いと感じられたら、みんながそろそろそうめんを流したいとソワソワし始めるらしかった。
 ただ、鹿児島市内から指宿まで行くとなるとそれなりに決心が要る。友人に「そうめん流しに行きたいけど、指宿は遠いよね」と話したら「いや、市内にもありますよ」とすぐに慈眼寺というところに連れていってくれた。唐船峡とは少し方式が違う器械が使われていて、回転する水の中をそうめんがくるくる流れるだけでなく、ときどき中央から水とともにそうめんが押し出されてくる。火山から溶岩が流れ出すことのメタファーだとしたら、いかにも鹿児島的なエンタテイメントじゃないか。気軽に行ける慈眼寺を知って以来、その日の最高気温が22℃くらいになると、ぼくの頭の中でそうめんがくるくる回り始めるようになってしまった。

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著者プロフィール

月刊連載『好物歳時記』毎月14日公開
icon_okamoto岡本 仁(おかもと ひとし)

ランドスケーププロダクツ
北海道生まれ。いろんな町をブラブラして、いつも何か食べてる人
と思われていますが、いちおう編集者です。
著者は『ぼくの鹿児島案内』『ぼくの香川案内』『果てしのない本の話』など。
雑誌『暮しの手帖』で「今日の買い物」という旅エッセイを連載中。