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22, A Million の電子

 ボン・イヴェール(Bon Iver)。オルタナティヴ・フォークにも分類されるアメリカのグループに、最初に出会ったのは2012年の初め。そのころパリにいて、情報は日本経由で入手、モンパルナスで紙製ジャケのCDを買った。
 その少し前の晩秋、北米へ向かう大西洋上の機内で、英国のミュージシャン、ジェイムズ・ブレイクのデビュー作を聞く。日本のミュージック・マガジンの2011年間ベストではどちらも取り上げられ、ボン・イヴェールはアメリカ/カナダで堂々の第1位に選ばれた。が、どちらかというと当時の私は、ジェイムズの第1作により強く惹かれた。5年が経ち、昨秋ボン・イヴェールがそれ以来の新作を出した。それで私はブッ飛ばされた・・その場に引っくり返された。(コトバには、そのほんのひとカケラを摘み取る能力しか持ち合わせがない。)
 まずはネットで見つけたジャケットのデザインに興味を抱き、CDではなくアナログ、LP Record を国内手配した。これも大いに正解となる。封を解き、すぐに取り出し、ターンテーブルに載せ、針を下ろす・・・・前作とずいぶん異なる、過度なまでの「電子加工」が即座によみがえった。
 A面1曲目、「22 OVER SOON」。まだおとなしい部類だが、その冒頭から、印象の変貌は余りに如実で、「どこに確認を捜し求めるの?(Where you gonna look for confirmation?)」とリスナーには訊ねてくる。曲を積み重ねるたびに練り上げられる、奇怪なまでの電子加工。耳、鼓膜、脳髄の受けた衝撃は手を変え品を変え、さらに追い打ちをかけてくる。私は彼らのエレクトロニカによって、バク、バクと、身を絆される。

 2曲目の「0 DEATH BREAST(死せる胸)」。ドラムスがこのタイトルを象るような心臓の鼓動へと、いきなり聴診器を当てる。たちまち音を割り、私たちの聴覚を劈く。その中を歌詞がくりかえす。

 発熱の安息 発熱の安息(FEVER REST FEVER REST)
 野生の心臓 野生の心臓(wild heart wild heart)

 唸る拍動は大型スピーカーのウーハーを強かに凸凹させてやむところがない。そんな仕草に私は、ジャンルはまるで異なるが、どこか10代のころ、初めてジミ・ヘンドリックスのライヴ音源に接した時の衝撃に似たものさえ連想してしまう。あれはNY、フィルモア・イースト、1970年1月1日の Band Of Gypsy・・

 3曲目は「715 CREEKS(小川)」。伴奏もごく控えめとなり、初めから、静かに存分に、ソロヴォーカルが割れていく。あたかも割れ荒むばかりに。受け止めきれなくなったアンプとスピーカーの回路が、コイツは不確実で不穏、と診断でも下すような小爆発をきたした。幸いにも愛用のメカ自体は事なきを得たが。そして唄う。

 小さな流れを下りながら(down along the creek)
 ぼくは何かを思い出す(i remember something)
 あの娘、サギが、あわてて飛び去った(her, the heron hurried away)
 例の先週日曜、ぼくが初めて半ズボンはいたら(when first i breeched that last sunday)
                           〔原文は全て小文字表記〕

 今回のアルバムでは、収録10曲のタイトルすべてが冒頭に数字を冠する。それだけをここに列記すると、22, 10, 715, 33, 29, 666, 21, 8, 45, 1000000。ちなみに最後の曲は「1000000 A MILLION」。そしてアルバム全体のタイトルは「22, A MILLION」となる。フム。

 LPのB面3曲目に収録された「8 CIRCLE」も秀逸だが、1つ前の「21 MOON WATER」ともども、日本語の字幕を付けたリリックビデオが公開されているのを見つけた。興味のある方は、こちらのサイトを。http://amass.jp/80296/
 その「8 CIRCLE」の冒頭はこう切り出される。

 自分の姿を哲学的に考えろ(philosophize your figure)・・・・

 最後にひとこと、この「電子加工」はアートですね。そこにも好みがあるのですが、これ以外のジャンルに身を移すと、何かの操作に役立ち、それで人の目を曇らせ、判断を危うくさせることもしばしばです。

PS A面3曲目の「715 CREEKS(小川)」の歌詞からもうひとつ、2連目の4行目を引きましょう。心惹かれながらも、どうにも乏しい語学力が追いつかず、魅力はなおも覚えるのですが、確たる訳などこにも紡げません。みなさま、どうかご自由にお受け止めください。

 and as certain it is evening‘at is NOW is not Time

(文中 絆される=ほだされる、象る=かたどる、劈く=つんざく、唸る=うなる、強かに=したたかに、割れ荒む=われすさむ)

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「月下モンパルナス」 撮影日時:2012年4月2日


 

著者プロフィール

mensuel『一路多彩 -pluralité unique-』毎月10日公開
nina蜷川泰司(にながわやすし)

1954年京都市に生まれる。文芸作家。2003年に最初の長篇『空の瞳』(現代企画室)でデビュー。2008年には、対話的文芸論『子どもと話す 文学ってなに?』(現代企画室)を上梓。
2013年の作品集『新たなる死』(河出書房新社)の冒頭を飾る「コワッパ」の執筆にあたっては、舞台となるル・プチメック今出川店からのご協力をいただき、店舗への取材を重ねている。
21世紀の初めから現在まで、第二の長篇『ユウラシヤ』に取り組んでいる。2015年9月、そのプロローグにあたる『迷宮の飛翔』(河出書房新社)を発表。今年(2017)は第1部にあたる新作『スピノザの秋』を刊行する。