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7月 マンゴー

 マンゴーの原産国はインドなのだそうだ。マンゴー・チャトゥニやマンゴー・ラッシーがすぐに頭に浮かぶ。海外で食べたマンゴーで強く印象に残っているのは、タイのチェンマイと台湾の台南だ。
 チェンマイの市場や露店では、マンゴーをのままよりも「カウニャウ・マムアン」というデザートとして売られていることが多い。ココナッツミルクで甘く炊いた糯米とフレッシュなマンゴーを一緒に食べる。糯米とマンゴーの組み合わせがものすごく奇異に感じられたので、最初はタイ語のできる友人に「糯米は要らないからマンゴーだけ売ってほしいんだけど」と頼んだりしてみた。友人がそう伝えるとお店の人は、この男はいったい何を言い出すのかという顔をする。友人も困ってしまい、結局はカウニャウ・マムアンを買って、マンゴーの切り身だけぼくに分けてくれるという手段を取った。ところが、それが何度か続いたある日、友人は「一度でいいから、糯米とマンゴーを一緒に食べてみて」と意を決したように言った。絶対に無理と思いながらも、珍しく強い口調だったので、目をつぶって口の中にちょっとの糯米と大きめのマンゴーを入れてみた。美味しい。すごく美味しい。マンゴーだけで食べるよりも楽しさが倍増する。どうしていままで拒否し続けたのだろうか。自分が本当のバカとしか思えないくらいに美味しかった。
 台湾へ行った時は、台北に住む友人が数日後に台南へ連れていってくれることになっていた。台北でも夜市などへ行くとあちこちにマンゴーかき氷を食べられる店があって、友人にあそこの店に入らないかと誘ってみるのだが、友人は「マンゴーは台南のものが信じられないくらいに美味しいから、台北のなんか食べちゃダメ」の一点張り。ぼくは東京から来たのだし、台北のマンゴーを食べてみないことには、台南のマンゴーの信じられない美味しさも、比較対象のない中では感動も減じてしまうのではないかとかなんとか、いろいろと説得してみても絶対に考えを変えてくれなかった。台南で食べたマンゴーは、友人の言葉どおり、もちろん最高だった。でも、台北でも食べてみたかったんだよなと、いまでもちょっと恨みに思っている。
 毎年、鹿児島に住む友人が佐多岬のマンゴーを送ってくれる。朝、冷えたマンゴーをカミさんが剥き始めると甘い香りが部屋中に漂う。なんと幸せな季節だろう。

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著者プロフィール

月刊連載『好物歳時記』毎月14日公開
icon_okamoto岡本 仁(おかもと ひとし)

ランドスケーププロダクツ
北海道生まれ。いろんな町をブラブラして、いつも何か食べてる人
と思われていますが、いちおう編集者です。
著者は『ぼくの鹿児島案内』『ぼくの香川案内』『果てしのない本の話』など。
雑誌『暮しの手帖』で「今日の買い物」という旅エッセイを連載中。