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第二十回 映画『かもめ食堂』

予告編・小林聡美が料理をするシーンがたっぷり入れられて見応えあり

舞台はフィンランドの港町。
小林聡美演じるサチエがはじめたかもめ食堂。
片桐はいりやもたいまさこら、出てきただけで笑ってしまう「いい顔」の女優演じる登場人物がやってきては、事件ともいえない、さざなみだつほどのできごとが起きるが、微笑とともに受け流されていく。

全編にわたって、ふわっとテイストだが、登場人物の境遇を一皮めくると、両親と死に別れたり、夫に逃げられたり、人生の目標を失っていたり…という女性たちである(そこは深堀りされず、あくまでふわっと)。
かもめ食堂は彼女たちを受け入れ、ゆるい労働の場を提供、孤独を癒す居場所になっている(公開した頃アンケートをとっていたら、働きたい職場ナンバーワンじゃないだろうか?)。
おいしそうな料理シーンとあいまって、仕事に人間関係にストレスフルな日常を送る私たち観客もほっこり癒されることこの上なしだ。

この映画と前後して北欧ブームが起きていた記憶がある。
もたいまさこがマリメッコを訪れて急におしゃれになるし、食堂のインテリアも北欧家具やイッタラだしで、とてもかわいい。
「フィンランド政府観光局協力」とのことで、フィンランドのプロダクトのプロモーションにもなっているのだろう。
そういえば、小林聡美の出演するPASCOの超熟のCMにもかもめ食堂とタイアップしたのがあったっけ。

https://youtu.be/5h3em7bUlAk

はっ、すべてが仕組まれたマーケティング!? と思わないでもないが、映画を作るには多額の資金が必要なので、大人の事情があるのは仕方ない。

パンの世界においても、かもめ食堂のビフォーアフターで変化があった。
フィンランド式のシナモンロール「カネルプッラ」が日本で脚光を浴びたのだ。
小林聡美が急に「そうだ!シナモンロールを作りましょう!」といって、いきなり場面が転換してシナモンロール作りがはじまる。
生地を伸ばしてぐるぐると巻き込むシナモンロールは、作っている過程がとてもおもしろいので、よくぞ映画にしてくれた! という感じだ。
丸めた生地をカットしてできた円筒を、アメリカ式のシナモンロールでは立てて焼く(だから断面が上を向いてぐるぐる渦巻きが見えている)。
フィンランドのカネルプッラは横倒しにする。
これだと渦巻きの断面が見えないからか、中央を両手の小指で押すことで、左右の断面を上へ向け、めがねのような形を作りだす(映画の中でも、小林聡美がやってくれている!)。
この形をコルヴァプースティという。
フィンランド語で、「平手打ちされた耳」という意味だそうで、音の響きも含めて気に入っている(特に「プー」というところ)。

日本ではブーランジェリー・レカンで本場と同レシピのカネルプッラが食べられる。
ある日、フィンランドから日本の食文化を学びに来ていた研修生に、レカンの割田シェフが出会い、かもめ食堂の舞台となったカハヴィラ・スオミのレシピを教えてもらったそうだ。
以来、レシピに忠実にシナモンロールを作っているとのこと(この話自体、かもめ食堂の一エピソードになりそうな、ふわっと感)。
シナモンとカルダモンがぎんぎんきいて、ふわふわでなく少し重め。
日本人の舌に合わせていない、突き刺してくる感じがある。
「かもめ食堂」に出てくるシナモンロールってこんな感じなのかなー、と思いながら食べている。
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著者プロフィール
月刊連載『月刊 池田浩明 やっぱりパンでした』 毎月3日公開

icon_ikeda池田浩明(いけだひろあき)

パンラボ主宰、ブレッドギーク(パンおたく)。
パンを食べまくり、パンを書きまくる人。
パンラボblog(panlabo.jugem.jp/)、twitter( @ikedahiloaki )、朝日新聞デジタル「このパンがすごい!」でパン情報発信。
もっとおいしく安全な小麦を日本に広げるプロジェクト「新麦コレクション」代表。