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第二十回 アーロンチェア

ふとしたきっかけで、最近アーロンチェアを手に入れた。

アーロンチェアとは、アメリカの「ハーマンミラー社」が1995年に発表した高機能ワークチェアである。ビル・スタンフとドン・チャドウィックを中心として開発・デザインされ、それまで主流だったウレタンや布地のシートクッションではなく、初めてメッシュを座面に採用した。その販売台数は700万台を超え、史上最もよく売れたワークチェアである。

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アーロンチェアの事を知った当時のことはよく覚えている。すでに、イームズを始めとしたミッドセンチュリーデザインに深く傾倒し始めていた僕にとって、「ハーマンミラー社」はその代名詞というか象徴であり、憧れの会社でもあった。そんな会社が満を持して発表した新製品。勝手にアルミナムグループなんかのイームズ系デザインを期待していた僕は、その今までのどの椅子とも似ていない真っ黒な座るための機械のような姿に驚き、同時に戸惑った。今思えば、それまで好きだったもの達が、この椅子の出現によって急に色褪せてしまうような感覚に襲われたのがショックだったのかも知れない。まだ無知&ピュアな学生だった僕は「こんなのハーマンミラーぽくない」と、目を背けるように興味を失うことにした。僕の、90年代以降のいわゆるハイテクチェアに対するトラウマはこうして形成されたのである。

それから、20年あまり。実際に目にしたり、触れたりすることはあっても、ちゃんと座ったこともなく、アーロンチェアに関しては、
「そんなに興味無いんで」という素っ気ない態度と距離感を、あえて保ってきた。

そんな僕の家にアーロンチェアはやって来た。

控えめに言って、最高。めちゃくちゃ、気に入っている(笑)。まず、その大きさ、サイズ感がいい。樹脂パーツとスチールパーツの素材感や組合せも良いし、重めの総重量から来る安定感も申し分ない。人間工学に裏打ちされた座り心地に関しては言うまでもなく、リクライニングの柔らかさは今まで使っていたアルミナムグループよりも数段上である。ずっと腰痛持ちだった人が、この椅子のおかげで長年の悩みが解消されたなんていう話にも頷ける。

当時、ハーマンミラーぽくないと思っていたけど、この椅子の根底には確かにイームズを始めとしたハーマンミラーを支えてきたデザイナーたちの影響を強く感じることが出来る。これほど、ハーマンミラーぽい椅子はないのかも知れない。本当に今さらだけど。毎日、ちょこちょこ用も無いのに座っては、ちょっと遠くから眺めたりしている。座っていない時も、カッコイイというのは良い椅子の条件の一つである。

そう。僕は、ずっとアーロンチェアが欲しかったのだ。どんどん世の中に溢れていくアーロンチェアを、いじけた目で羨ましそうに見ていたのである。 20年経って、やっとそれを受け入れる余裕が出来たのかも知れない。もっと早く、買っとけば良かったなー。

というわけで、「アーロンチェア、今までごめんね」という話でした。笑


著者プロフィール
月刊連載『月刊 唄鳥』毎月5日公開
icon_songbird徳田 正樹
インテリア・プロダクトデザイナー
SONGBIRD DESIGN STORE.」代表

京都生まれ。大学卒業後、内装会社勤務を経て、1999年「IREMONYA DESIGN LABO」の立ち上げに参加。その後、2008年まで同社のデザイナーと代表を務める。2008年退社後、Masaki Tokuda Design.設立。2009年に、京都でカフェを併設したインテリアショップ「SONGBIRD DESIGN STORE.」開業。