title_saeki

二十杯目 寝ぼけまなこの僕の楽しみ

ここ数週間、ほぼ毎日夢を見る。30分ほどの仮眠でもリアルな夢を見ることがある。夢を見るのは疲れているからだといわれるけど、僕はけっこう好きだ。

怖い夢を見たときはしんどいけど、空を飛んだり、好きな人の夢を見たときは、とても気分がいい。

小学生のとき、担任の先生が「夢に色がある人」と質問したら、40人のうちたった半数だったことに驚いた。匂いや触感、味覚のある夢を見る僕は、かなりの少数派だった。

小さい頃は、食べ物の夢ばかり見ていた。学校から帰ったら、家の中が好きな食べ物でいっぱいになっている。僕の部屋はカラアゲとハンバーグ、姉の部屋はしょうが焼きとおにぎり、親の寝室は松茸。なんとも平和な夢だ。

中学・高校時代は好きな人が夢によく出てきて、社会人になると仕事の夢を見るようになった。空を飛ぶ夢だけは、今でもよく見ている。

「胡蝶の夢」という説話がある。~人間である荘周が夢の中で蝶になったのか 蝶が夢の中で荘周になったのか~ という中国の思想家・荘子の代表作。

「夢」と聞くと必ず思い出す話なのに、なんだか怖くて好きになれない。きっと僕が、いつも生々しい夢を見るからだろう。蝶だろうがカブトムシだろうが、夢の中でも虫になんてなりたくないよ。

「せっかく会いにきたんやけん、はよ起きなさい」一年前の敬老の日の頃、亡くなった祖母に夢で叩き起こされた。泣きながら親戚のことを嘆く姿はとてもリアルで、これは只事じゃないと感じた。

翌日、母に夢の話をしたら、母も同じ夢を見たという。急いで実家に帰り、その親戚と話し合いをしたことがある。

初めて自分のバーの夢を見たときは、僕の日常に店が馴染んだ気がして嬉しかった。 だいたい、前日に会った人が夢に出てくるから、うちの店長はよく登場する。夢の中の店長は、いつも笑顔でいじわるをする。

おもしろい夢を見たら、こっそり漫画にして残すようにしている。起きたらすぐ、内容を枕元のノートにメモして、就寝前に時間があれば絵を描く。

ときどき熱中して何時間も描いていると、日常では思いつかない、支離滅裂な傑作が生まれることがある。どうやら夢の中だけは、奇才の脚本家になれそうだ。

誰にも見せない、見せる予定もない、寝ぼけまなこの僕の楽しみ。


著者プロフィール

月刊連載『外苑前マスターのひとりごと。』毎月15日公開
icon_saeki佐伯 貴史(さえき たかふみ)

BARトースト』のマスター
コーヒー会社で営業を経験後、雑誌の編集に興味を持ち『R25』『ケトル』等の媒体に携わる。歌と本と旅と人が好き。餃子は酢とコショウで食べるのが好き。