Voyage à Venise en été 3. / 夏のヴェネチア旅行3

晴れた日にヴェネチア周辺の島に行った時のこと。
有名なヴェネチアンガラスの工房があるムラーノ島とレース編み文化がまだ残るブラーノ島がある。
ブラーノ島は漁師の島で、しばしば霧が深く立ち込める海から我が家を目指す漁師たちに位置がわかるようにと立ち並ぶ家々はカラフルに塗られている。
また漁師たちが必要とする網を編む技術は、男たちが漁に出ている合間に女たちがレース編みをする伝統を生んだ。15世紀からすでに注目を浴びる産業となり今日もレース編みはブラーノ島の特産品となっている。
フランスも日本も同じだが伝統産業を継ごうとする若者は少なく、既製品も出回っていて本物のレースを買おうと思うと気軽に買える値段ではない。
島内にはレース美術館がある。、途方もない時間をかけて作られた作品の中で、談話をしながら楽しそうにレース編みの実演をしているベテランマダムたちに会える。残念だが時間に追われた生活では消えて無くなっていく文化だと思う。

ヴェネチア本土でよく見かけたが、ブラーノ島が発祥地の面白い形をした黄色いクッキーを沢山置いているお菓子屋がある。
その中でも一軒、透明なビニール袋に入れたクッキーが沢山並んでいるお店を発見した。
店内はタマゴせんべいのような懐かしい香りがする。奥から笑顔のムッシューが出て来た。
ショーケースには少しのケーキとヴィエノワズリー、大きな棚には手が届かないほど高く積まれたクッキーが並んでいた。まず買う前に試食すると香ばしくサクッとして二つ目が欲しくなる、これは旨いと思った。 
ボーノ、グラッツェ、チャオぐらいしかイタリア語は知らなかったっが、幸いここのムッシューがちょっとフランス語が分かるので話してみた。
このS字のクッキーBiscotti Bussolà(ビスコッティブッソラ)、Buranelli(ブラネッリ・ヴェネチア語)は列記とした昔からあるヴェネチアのお菓子だそうだ。
好奇心旺盛な僕の妻と女性に優しいイタリア人ムッシュー・ガルボ、2人の話が盛り上がって工房を見学することになった。

とても優しいムッシュー・ガルボ、せっかくだからと少ない量で生地を仕込んで見せてくれ、パティシエだったら出来るだろ?とS字の成形を妻と一緒に作っていた。
粉、砂糖、卵黄、バター、バニラとレモンのシンプルな材料。陽気なムッシューが鼻歌交じりで手際よく棒状にした生地をヒョイっとS字にするときはちょっと感動した。接客に忙しいところ対応してくれたムッシュー・ガルボには感謝の気持ちでいっぱいだった。
これからも小さなブラーノ島で愛らしいビスコッティを作り続けて欲しいと思う。

現在のヴェネチアは「アクア・アルタ」と呼ばれる潮位の上昇と街を見下ろす巨大なクルーズ船の入港、観光客の増加で市民の生活が危ぶまれる。
歴史ある「水の都」がたんなるテーマパークになって欲しくない。
僕は2度目の観光だがこれからも訪れたい場所である。

何故ならヴェネチアは実に心地よく酔わしてくれる街だから。


著者プロフィール

月刊『Les miettes de pain』毎月28日公開
icon_mayumi伊藤 源喜(いとう もとき)

京都出身。関西のパン屋さんで就職後、2006年に渡仏。
良い事も、悪い事も受け入れながらパリで日本人妻と生活中。
現在はLa Boulangerie du Nil に在職中。
www.terroirs–avenir.fr