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愛おしいおじさん音楽。

濱田英明という写真家がいる。今や10年代の新しい潮流の写真家として世界中を駆けめぐる人気フォトグラファーだ。もちろん写真がとても好きでずっと追いかけてるのだけれども、濱田英明に僕が惹かれるのはそこだけではない。年齢はたしか僕の一つ下だと記憶しているけれど、若い頃同じような音楽を聴いてきたのだろうなと思わせるバックボーンを感じることもその一つだ。ネオアコから始まってソフトロックそしてSSW、AORに流れていく音楽遍歴。長門芳郎や小西康陽、橋本徹らによるソフトロックやフリーソウルなどの再発見/評価の延長上というよりも、佐野邦彦によるVANDAでありコンピレーション「The Melody Goes On」シリーズの影響が個人的には大きかったりする。キリンジ、あるいはLampや一番新しいバンドで言えばウワノソラに繋がるポップスの聴き方を方向付けた重要なミニコミだった。音楽の話を直接したことは無いけれども、おそらく濱田さんも同じような変遷だったのではないだろうかと思う。

2010年頃に濱田さんがUstreamで本人たちがやっていたSongbirdというユニットの演奏を自宅から配信するということがあった。おそらく当時まだ大学生だったYeYeとその実兄・橋口貴志による兄妹演奏に心を奪われた。まだハタチそこそこの女の子がなんと自分好みの音楽を奏でているのだろうと。聞けば僕らと同世代の兄に色々と聴かされていたそうだ。兄の10年分の音楽知識と演奏技術が10代の少女の音楽センスを加速させる。早熟な女性シンガーソングライターの誕生はもちろん彼女自身の高い感受性と個性によるものに違いないが、環境が人を成長させるのも見逃せない。

YeYeはその後どんどん人気を博していく。音楽性も芯の部分は何一つ変わらないが、一人で全ての楽器を担当した1stに比べ、ライブのために組んだバンドでレコーディングに望んだ2ndや3rdは完成度、表現力が驚くほどに向上してる。彼女がメンバーに選んだのも地元関西を中心に活動している“おじさん”軍団だ。おじさんたちはYeYeの音世界を鮮やかに彩り、一方でYeYeからパワーをもらいそれぞれの音楽活動にフィードバックしているように感じられる。YeYe周辺はいつも賑やかだ。LLamaのsenoo rickyは歌もののソロを出すし、田中成道とLainly J Grooveの浜田淳は二人でユニットTANAKA OF THE HAMADAを始めた。

TANAKA OF THE HAMADAが浜松でライブをするというので観に行った。先日リリースされたばかりのカセットテープは買っていたので、カーステレオで予習しながらライブ会場に向かった。オフコースやスピッツなどにも通じる真っ当に王道なメロディに、テクノポップ感や80年代洋楽な楽しい旋律が融合する音楽。同乗者とコーラスワークがすごくキレイと盛り上がったり、小さな音で聴いてる時には気付かなかった新たな発見もあった。そしてライブである。これがとにかく楽しい。二人のやりとりが台本なのかアドリブなのかわからないが、シュールなコントのようだ。しかし曲は大まじめだ。ライブでも途中息切れしながらも持ちなおしたりあったが美しいハモりを楽しめた。鍵盤と電子パーカッションと一部オケで構成だけみるとエレクトロのようでもあるけれど、ど真ん中の歌ものポップスであった。帰途も相変わらず流していたらビーチボーイズもカヴァーしたDo You Want to Danceに耳が留まる。あぁこれは僕がVANDAとかに影響を受けたその延長線上にあるポップスなんだなと妙に納得した。

ディスク紹介:c_siphon20-2
TANAKA OF THE HAMADA 「Cassiopeia」(Self/2017)
https://www.youtube.com/watch?v=J-sMj5kaENI

 


毎月22日公開 月刊『片隅の音楽』
icon_siphon宮下 ヨシヲ
グラフィックデザイナー
Siphon Graphica(http://siphon-graphica.net/)主宰

1976年、愛知県豊橋市生まれ。グラフィックデザイナー、ブックデザイナー。高校生の頃より英米インディー音楽に傾倒し、大学在学中にZINE制作を始め音楽誌に音楽ライターとしてキャリアをスタート。自ら雑誌制作の全ての行程に関わりたいとデザインを学び出版社、広告デザイン会社を経て、2008年サイフォン グラフィカ設立。2013年浜松に事務所を移設。現在はブックデザインを主なフィールドとしながら、ショップなどのトータルデザイン、パッケージなども手がける。

イラストレーション:akira muracco(http://akiramuracco.me/top