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二十二杯目 僕の想い出の音楽の秋

誕生日が近づくと思い出す、昔、好きだった子の誕生日。人の誕生日って覚えられないんだけど、彼女の誕生日が僕の3日後だったから、20年以上経ったいまでも覚えている。

運動会が終わり、文化祭も終わって、イベント事にお腹いっぱいになったころ、秋の合唱コンクールはやってくる。大半の生徒は、かったるいなと思っている、あまり歓迎されない学校行事。だけど、音楽好きの僕には、楽しみなイベントだった。

中学生最後の合唱コンクール当日。僕は指揮者で、あの子がピアノ伴奏だった。正直なところ自信はあった。熱血の担任のおかげでみんな一生懸命練習したし、伴奏者は学年で二番目にピアノが上手だった。

しかし、一番盛り上がるサビの直前、ピアノソロが止まった。僕は一瞬血の気が引いたけど、無意識のうちに手拍子で場を繋いだ。曲は止まることなく歌い切り、結果は10クラス中、一位だったけど、好きなあの子は泣いていた。

15歳の誕生日を迎えた3日後、部活の先輩の家に用があり、僕は少し遠くの街に来ていた。そういえばこのあたりに、あの子が住んでるはずだな、そういえば今日が誕生日だったな、と思いながら、自転車を漕いでいた。

ある家の前を通ったとき、聞き覚えのあるメロディが聴こえてきて、思わずブレーキをかけた。合唱コンクールで僕らが歌った曲だった。止まってしまったソロ部分を、彼女は繰り返し繰り返し、練習していた。

一週間後、各学年の優勝クラスが出場し、全校一位を決めるコンクールが行われた。演奏前、彼女は無言でうつむき、ずっと指をカイロで温めていた。本番では、ソロ部分も成功し、僕たちのクラスは優勝することができた。賞状を受け取り、彼女の方をチラッと見ると、彼女は小さくVサインをした。

いま考えると、学校内で一位を競うって、なんとも小さな勝負だけど、まだ若かった僕らには、とても大きな目標に思えた。少なくとも僕にとっては、大事な青春行事だった。

いまの僕はというと、「合唱コンクール」と聞くと、クラス分けのときに、ピアノが弾ける人を各クラスに配置する先生って大変だな、と思ってしまう。オジサンになったなぁ。


著者プロフィール

月刊連載『外苑前マスターのひとりごと。』毎月15日公開
icon_saeki佐伯 貴史(さえき たかふみ)

BARトースト』のマスター
コーヒー会社で営業を経験後、雑誌の編集に興味を持ち『R25』『ケトル』等の媒体に携わる。歌と本と旅と人が好き。餃子は酢とコショウで食べるのが好き。