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1月 ガレット・デ・ロワ

 はじめてガレット・デ・ロワというお菓子の存在を知ったのは、四半世紀近く前のことだ。
 年越しをパリで過ごそうということになった(その頃のぼくら夫婦は重度のフランスかぶれだったのだ)。友人の友人の家で晩ごはんをご馳走になり、デザートに出てきたのがガレット・デ・ロワだった。いちばん年下の女の子がテーブルの下に入る。それから目隠しをした家の主人がお菓子を切り分け、「これは誰?」と尋ねる。テーブルの下にいる女の子は、どれを指さしているのか見えていないが、ひとつひとつ誰のものかを決める。ぼくらにもガレット・デ・ロワが一切れ与えられた。みなで一斉に食べ始める。ガリッと何か硬いものを噛んだ。あわてて口から出すと、それは陶製の小さなババールだった。「おめでとう、君が王様だ」とみんなが拍手をしてくれて、ぼくは紙でできた金色の王冠をかぶらされた。なんて面白い風習だろう。フランスかぶれのぼくらは、このお菓子がいっぺんで好きになった。あとで調べたら、本来は公現節(1月6日)に食べるお菓子らしかった。
 それからしばらくして、リヨン留学から戻った友人夫妻が近所に小さなレストランを開いた。彼らがリヨンに住んでいた頃に、やはり年越しをリヨンで過ごしたことがあって、その時もたしかガレット・デ・ロワをみんなで食べた記憶がある。彼らが帰国して開いた店でも、1月になるとデザートにガレット・デ・ロワが登場した。ぼくらは当然のようにそれを頼む。しかもぼくらは店のオープン時間と同時に食事を始めるような客だったから、ガレット・デ・ロワはまだホールのままで、注文と同時に切り分けられたものを指差して選ぶことができた。そうしたらいきなりフェーブを引き当てた。しかもそれが3度ほど続いたのだ。友人の店では翌年からフェーブを1ホールに2個入れるようになった。
 そんな楽しみをすっかり忘れてしまっていた数年前、近所にできたパン屋が1月になるとガレット・デ・ロワを販売することを知った。しかも2人で食べるのにちょうど良いサイズだったから、お正月の楽しみとして毎年、必ず買うようになった。小さなガレット・デ・ロワを半分に切るのはぼくで、どちらがどちらのものかを決めるのはカミさんの役割だ。この方式になった途端、かつてあれほど連戦連勝だったのに、まるでフェーブが当たらない。ちなみにこの店ではPL法に準拠して、フェーブではなくそら豆をガレットに入れて焼く。だから買った時点で別にくれるフェーブが何かわかるのだ。今年は葡萄積みの男を模ったものだった。これは絶対に欲しいと思ったが、例年どおりカミさんの勝利。我が家はここ数年、ずうっと女王陛下が統治している。

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著者プロフィール

月刊連載『好物歳時記』毎月14日公開
icon_okamoto岡本 仁(おかもと ひとし)

ランドスケーププロダクツ
北海道生まれ。いろんな町をブラブラして、いつも何か食べてる人
と思われていますが、いちおう編集者です。
著者は『ぼくの鹿児島案内』『ぼくの香川案内』『果てしのない本の話』など。
雑誌『暮しの手帖』で「今日の買い物」という旅エッセイを連載中。