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「お・も・て・な・し」

東京オリンピックが、いよいよ2年後に開催される(はず)。

「お・も・て・な・し」

この言葉が流行語大賞にノミネートされた頃は、随分と先の事と感じていたのに。
年々、時の経つスピードが速くなり困ってしまう。

ちなみに、「おもてなし」っていう日本語は、英語だと何て言うんだっけ
「hospitality」かな。

ん?
英語よりも、そもそもの語源が気になってきたぞ。
って調べてみたら、

① 表裏がない対応を心がけることを意味します
② 動詞「もてなす」の丁寧語で、モノを持って成し遂げることを意味します
 (この場合のモノとは目に見えないモノも含みます)

ふーん。
なるほどね~。

ところで。
3年くらい前から、
仕事でフィンランドに買付けに行く際には、民泊システム(Airbnbなど)を利用し、
格安で空き部屋を借りている。

私が部屋を借りる時の条件と言ったら、
小さくても良いので料理ができるキッチンが付いていること。
ただ、それだけ。

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なので、狭かろうが、古かろうが、まったく気にしない。
まあ、
買付け業務にはリフト付き建物が理想なのだろうけれど、
リフトがなければ階段で、ヨロヨロと重い荷物を運べばいい。

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今まで、他国の民泊も利用してきているけれど、
特にフィンランドでは、
ホスト(空き部屋の持ち主)の「おもてなし」スキルに、毎回深い感銘を受ける。

フィンランドの人はシャイで照れ屋なところがあるので、
私が到着した瞬間に、大きなハグやキス!ブチュ~!で迎えてくれるわけではない。

想像以上に静かな挨拶を交わし、
空き部屋の説明を終えると、サササ~と自分の部屋へ戻ってしまう。

帰国の際も、サヨナラのハグをしに現れたり、見送りなども一切なく、
最後まで顔を合わさずに帰国することがほとんど。

「帰る日は、鍵をテーブルの上に置いていって。それだけでOKだから」

そう。
それだけ。

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対照的な例を挙げると、
スペインで借りた部屋の大家さんを思い出す。

毎日のように部屋にやってきて、
「オラ~!シホ!今、部屋にいるかあ~?」と、大声で叫ぶ。

その後は、長い世間話。

「昨日のサッカーの試合観たか?サッカーはセビージャのチームが一番だ!」

って言われもさあ、
ボロボロのテレビは、どのチャンネルもシャーってしていて何も見えないし。

「借りる条件の所に、テレビありますって書いてあったけど、テレビ壊れているよ」

と伝えると、
何事もなかったかのように「また明日な~!」って帰っていくし。

決して悪気のある人ではなく、
彼なりに、私のことを気にかけてくれていることは分かっている。
私自身が慣れ親しんだ、スペイン人の良い部分ならではなのだけれど、
そんなやりとりが毎日続くと、こちらもつい面倒くさくなり、
居留守を使っちゃったりしたっけ。

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で、
フィンランドの話に戻ると、
まず驚くのは、あまりに控えめすぎる「フィンランド流のおもてなし」。

「それじゃあ、滞在を楽しんでね。バイバイ!」
と、
ホストが自分の部屋に戻り、相変わらずあっけないな~と部屋を見渡す。

すると、
テーブルや窓辺には、お花や植物が美しく飾られている。

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冷蔵庫を開けると、ミネラルウォーターや老舗店のチョコレートが入っている。
引き出しを開けると、お茶やサルミアッキが入っている。
清潔なシーツと、綺麗にたたまれたタオル。
近所のおススメ店などを丁寧にまとめた便利なファイル。

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つくづく素敵だな~と思うことは、
それらをまったくアピールせずに、サササ~と立ち去るところだ。

「これは、私からのサービスだから食べて」
「あなたのために、これだけの準備をしておいたから」
という、
「してやったぜい」感がまったくない。
それが、実に心地良いし、たまらなくキュンとなる。

まるで宝探しをするかのように、小さな部屋のあちこちを開けていくと、
ホストの「さりげない準備」を見つけることができて、
私は、いちいち「ワア!」って大声で喜んでしまう。

折り畳みの傘とか、エコバックとかも置いてくれているんだもん。
電源・コンセントプラグも準備してくれているんだもん。
思わずホロリとしちゃうじゃない。

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民泊システムで宿泊先を検索する際、
「チョコレートを準備してあります」「お花を飾っておきます」
なんていう条件は、どこにも書かれていないし、
料金にも含まれていないし、そこまでする必要もないと言えばない。

でも。

過剰なサービスが苦手な私には、
その語源の通り、
表裏がなくて、目には見えないモノを持ってして成し遂げちゃう、
控えめすぎる「フィンランド流のおもてなし」が、ちょうどピッタリとハマるみたい。

ちょっとぶっきらぼうでも、歓迎の言葉が少なくても、
その小さな部屋が、すこぶる快適に感じられるのは、
そこが「優しいキモチ」で温かく満たされているからなんだって思う。

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今年の買付けの際にも、きっと利用するであろうフィンランドの誰かの空き部屋。
宝探しのような、彼ら流の「お・も・て・な・し」に出会えることが、
今から楽しみで仕方ない。

あ。
そう言えば。
フィンランドで部屋を借りる際に、ひとつ注意事項があるとしたら、
玄関では、靴を脱ぐこと。
そう。
日本と同じなんだよね~。

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著者プロフィール

月刊連載『旅のち、たびたび北欧へ』毎月16日公開
prof_shiho伊藤 志保(いとう しほ)

カフェ「istut」のオーナー&厨房担当
自らが買付ける北欧ヴィンテージショップ「2nd istut」も営む
古いモノ、ヨーロッパ、蕎麦、ワインが好き
1969年生まれ 長野市出身