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言葉の壁を越えて。

YOUは何しに日本へという番組がある。外国の方が日本に何をしにやってきているかを密着取材するという番組だ。昨年夏に日本のシティポップ好きアメリカ人のスティーブさんが大貫妙子の1977年リリースの2ndアルバム「SUNSHOWER」を探しにやってくるという回をきっかけに、「SUNSHOWER」のLPが再発されるというちょっとしたブームになった。実はこのアルバム2014年にLPで再発され、さらには2016年にも再プレスされているので、今回は再発の3回目のプレスということになる。もちろん、昨今のシティポップブームがあり既に再評価されていた経緯はあるものの、番組によって外国でも昔の日本の音楽が人気だということを改めて認知させられた印象的な出来事だった。

2003年にソフィア・コッポラ監督作品「Lost In Translation」にはっぴいえんどの名曲「風をあつめて」が劇中歌として使われ、海外でも話題になったことはまだ記憶に新しい。しかし日本の音楽が海外で本格的に発掘・再評価されて出したのはここ数年のことだろう。ヴェイパーウェイヴから派生した音楽ジャンル、フューチャーファンクの海外ミュージシャンが日本の80~90年代のジャパニーズ・ファンクなJ-POPやフュージョンをサンプリングしまくり、ほとんどの日本人が知らないマイナーなものまで世界に知られるようになった。このへんのことをツイッターでhallyさんが日本の音楽に詳しい日本在住のニュージーランド人Nick Dwyeの腑に落ちる言葉を紹介していた。「欧米人の大半は日本語検索できないから、日本の音楽なんて長らく掘りようがなかった。そういう人にYoutubeの『次の動画をAIが選んできて自動再生する機能』が、日本の音楽をもたらした。あれで初めて日本の音楽に触れて『なんだこれすごいな!』ってなる人が増えたんだよ」。

僕自身このところアジア圏の音楽を聴くことが多くなっているが言葉の壁の高さを感じることが多い。英語表記の多いシンガポールやフィリピンのものは大丈夫なのだけど、タイ語や韓国語しか情報が無いとアーティスト名を覚えることすらままならない。自分の学習していない言語は識字すら怪しいのだ。これはきっと日本語だけで書かれたものも海外で同じように思われているはずだ。これからの時代グローバル用に英語表記は絶対にした方がよい。

アジアの中でも台湾は漢字文化だから文字が(少なくとも)読める安心感がある。昨年台湾の音楽で一番買って良かったのが孔雀眼と漢字表記されるJADE EYES。3ピースの女性バンドだ。結成後現在までにギターのメンバーが変わっているが、変わってからの方が断然好みの音を奏でている。日本のD.A.N.に通じるエレクトロを通過したポストロックなサウンドで、ネオソウルやブラックミュージックの影響も感じる。世界同時多発でこういう音が出てくるあたりがYoutubeやSoundcloudで繋がる今っぽさがあるなと思う。台湾はグラフィックデザインがすごく進んだ国と僕は思っていて、JADE EYESのジャケットも大瀧詠一のジャケットなどでお馴染みの永井博(今の日本のシティポップブームで再び人気が沸騰している)をヴェイパーウェイヴにしたような素敵なイラストである。アルバム収録曲「VIVIAN」のビデオを見てまた驚いた。完全にヴェイパーウェイヴの影響にあるからだ。しかしジャケット同様ビデオにもヴェイパーそれ以降を感じさせるものがある。デザインにおけるヴェイパー以後のヒントは台湾にあるのかもしれないなと、愉しみであるはずの音楽から仕事の方に引き戻されてしまった。

ディスク紹介:c_siphon18-2
JADE EYES 「ADDICT」(黑市音樂/2017)

 


毎月22日公開 月刊『片隅の音楽』
icon_siphon宮下 ヨシヲ
グラフィックデザイナー
Siphon Graphica(http://siphon-graphica.net/)主宰

1976年、愛知県豊橋市生まれ。グラフィックデザイナー、ブックデザイナー。高校生の頃より英米インディー音楽に傾倒し、大学在学中にZINE制作を始め音楽誌に音楽ライターとしてキャリアをスタート。自ら雑誌制作の全ての行程に関わりたいとデザインを学び出版社、広告デザイン会社を経て、2008年サイフォン グラフィカ設立。2013年浜松に事務所を移設。現在はブックデザインを主なフィールドとしながら、ショップなどのトータルデザイン、パッケージなども手がける。

イラストレーション:akira muracco(http://akiramuracco.me/top