masakitokuda

第二十三回 引越

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昨年末に自宅の引越しをした。
当初難航すると思われていた物件探しも、奇跡的なご縁とタイミングで、お店の近くに理想通りの一軒家を借りることができた。

長年にわたって何かとお世話になった方々が住んでいた物件で、生活の拠点を近々移される為、京都を離れるという話を聞いていた。
もともとは学校のような施設として建てられた建物だそうで、伺うたびに物件としての魅力もさることながら、その素敵な住まい方にいつも憧れていた。

とはいえ、古い建物なので、色々手を入れないといけないなと覚悟はしていたが、いざ置かれていた荷物や家財道具なんかが無くなると、傷みの激しい部分や、使用上問題のある部分なんかも幾つか見つかった。
さらに、半分は倉庫やスタジオとしての使用を考えていたし、いざ自分達が住むとなると「ここはこうしたい」とか「あそこの使い方はこうしよう」なんていう欲求がいろいろ出てきて、結果かなりの部分を補修・改装することになった。
といっても、なるべく安く上げるために作業は全て自分一人でする事にしたので、引越し前の一ヶ月では、時間が全然足りなくて、今も住みながら休日や空いた時間を利用して、日々コツコツと作業をしているという状況である。

思っていた以上に時間が掛かっている最大の理由は、作業時間の取れなさもさることながら、クライアントとデザイナーと施工業者との関係性にある。
と言っても、クライアント(依頼主)は僕で、デザイナー(設計)も僕、そして施工(作業)するのも僕である。
クライアントしての要望は果てしないけど、お金は出せない。デザインや設計という職業柄、なまじっか普段プロの職人さんや業者さんの仕事を見慣れているせいか、工事内容の難易度や仕上がりの精度に対する要求が自然と高くなってしまう。しかし、作業するのは技術的には素人、さらに言えば不器用な自分である。

要するに、求められるクォリティにコストもスキルも全然伴っていない現場なのである。まあ、実際もよくある事だけど・・・。

普段、図面上で何食わぬ顔でさらっと指示している構造や収め方も、いざ自分でやるとなると、とてつもなく難易度の高い事に気付く。全然上手くいかない。
当たり前といえば当たり前だけど、知識として知っているというだけでは、実際に作れるという事にはならない。
必然、作業者(自分)の技術レベルに合わせた簡単な作り方やシンプルな収め方を選択しなければならない。失敗と妥協の連続であり、都度、三者(自分の中の)による協議が必要となるので、当然時間も掛かる。
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完璧に採寸して、何度も何度も確認したはずなのに、最後の収まりで何ミリかの隙間や段差が出来たりする。完璧にマスキングして、さらに養生を重ねているのに塗料が垂れていたり、思わぬところに飛沫が飛んでたり、あんなに何度もチェックしたのに塗り忘れがあったりする。
でも、この数ミリだったり一飛沫が、プロとアマチュアとの永遠に埋まらない決定的な差なのも知っているので、今日も隙間や段差を見て見ぬ振りをして作業を続けながら、いつもお世話になっている職人さんたちへの敬意を深めるばかりである。


著者プロフィール
月刊連載『月刊 唄鳥』毎月5日公開
icon_songbird徳田 正樹
インテリア・プロダクトデザイナー
SONGBIRD DESIGN STORE.」代表

京都生まれ。大学卒業後、内装会社勤務を経て、1999年「IREMONYA DESIGN LABO」の立ち上げに参加。その後、2008年まで同社のデザイナーと代表を務める。2008年退社後、Masaki Tokuda Design.設立。2009年に、京都でカフェを併設したインテリアショップ「SONGBIRD DESIGN STORE.」開業。