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第二十五回 ソファのある生活

引越しをして、とても楽しみにしていた事の一つに、ソファを買うというのがあった。厳密に言えば、自分でデザインをしたソファを職人さんに作ってもらうので、買うという表現が当てはまるかどうかは判らないが、何はともあれ楽しみにしていた。いや、念願だったとさえ言ってもいいかも知れない。

職業柄、大きな声では言えないが、未だかつて自宅にソファを置いた事が無かった。今までお客様には「ソファのある部屋って良いですよねぇ」なんて、散々オススメしてきたくせに、自分の部屋にはソファ無かったんかいと言われそうだが、ちょっと待ってほしい。ソファが必要なかった訳では無い。むしろその逆である。僕は、誰よりもソファに憧れ、ソファに対する強い想いを持ち続けて来たのである。

学生時代、40年代から70年代における西海岸を中心としたケーススタディハウスやアイクラーホームズに代表されるアメリカの近代住宅に強い関心と憧れを持っていた。いいなと思う部屋には、決まって広々としたリビングに、イームズやジョージネルソンなんかの椅子やテーブル、そして大きなL字型のコーナーソファがどんと置かれていた。

「ソファはL字」。僕のソファに対する価値基準は、この時期に強く刷り込まれたのである。だから、L字型のコーナーソファを置ける部屋に住むまでは、自宅にソファは買うまいと心に決めていたのである。

SONGBIRD DESIGN STORE.を始める時、とりあえず自分自身が欲しいと思える理想のコーナーソファをデザインしようと思った。コーナー(角)に来る正方形のピースソファさえあれば、それにモデュールを合わせて直角に各々ソファを繋げればL字のコーナーソファを作ることで出来る。直線だけで構成されたシンプルなデザインで、床から座面までの高さは、少し低めの300mm。サイズが大きくなる分、部屋に圧迫感を与えないように背もたれの高さも抑えた。フカフカの柔らかいソファが苦手なので、ウレタンは硬めに。畦道や盛り土なんかに腰掛けるイメージだから(ちょっと意味は違うけど)、

DIRTWALL SOFA」という名前にした。というわけなので、すでに10年前、いつでも自分の部屋にソファを置く準備は万端だったのである。

L字ソファを置くためには、部屋の広さもさることながら、その形状も重要になってくる。出来れば、正方形に近い四角い部屋のコーナーに逆L字で配置したい。高さを抑えたソファの L字が緩やかに部屋を仕切っている感じがいい。最初の一人暮らしの部屋は狭すぎたし、その後に住んだ部屋たちは、広さ自体は問題なかったが、形がどれも長細く、いわゆる鰻の寝床だった。これでは、イメージ通りのサイズや配置では置く事が出来ない。そして今回、やっと広くて四角い部屋に引越し出来た。とうとうその時は来たのである。

ソファが来る日。今まで、このソファ自体は何度も何度も作ってきたし、その都度納品にも立ち会って来たけど、明らかに全てが違う。こんなにもワクワクするものなのか。初めての自分のソファ。自分で言うのも何だけど、最高に座り心地がいい。その日は、ソファに座って夕食を食べ、コーヒーを飲み、ベッドではなくソファで眠った。これで正真正銘、心から言える。「ソファのある生活って良いですね!」

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著者プロフィール
月刊連載『月刊 唄鳥』毎月5日公開
icon_songbird徳田 正樹
インテリア・プロダクトデザイナー
SONGBIRD DESIGN STORE.」代表

京都生まれ。大学卒業後、内装会社勤務を経て、1999年「IREMONYA DESIGN LABO」の立ち上げに参加。その後、2008年まで同社のデザイナーと代表を務める。2008年退社後、Masaki Tokuda Design.設立。2009年に、京都でカフェを併設したインテリアショップ「SONGBIRD DESIGN STORE.」開業。