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月の本棚 五月  もし京都が東京だったらマップ

初めてブルックリンで部屋を借りようと思ったとき、土地勘がなかったので、現地に住む友人に相談すると、「マンハッタンが新宿なら、うちのあたりは西荻窪かな」と言った。それがものすごく私をニューヨークに近づけた。未知の場所を既知の場所にたとえるのは、街をざっくり把握するのにいい方法だ。誤差は当然あるが、それを自分で知っていく楽しみも含めて。

『もし京都が東京だったらマップ』は、京都の街を東京の街にたとえて案内する本。以前ここで書いた『京都の平熱』とはまた違った趣向の京都案内だ。

著者の岸本千佳さんは京都出身で、京都の古い建物を生かし、次の時代につないでいくという、不動産の仕事をしている。「東京の人はびっくりするほど京都が好き」だと岸本さんは言う。私も好きだ。それでこの本を手にとった。東京駅から京都駅まで行く間に読み終えるのにちょうどいい質量ということもある。

私は京都の街の大きさと、時を経て現存する建造物の美しさが好きだ。東京は20世紀の震災や戦争で建物が失われ、街がリセットされてしまったわけだから。

岸本さんは仕事をするなかで、「東京の人は京都をすべて神楽坂みたいに思っているんじゃないか」と仮定し、そうではないことを伝えたいがために、この本を書いた。東京の人は必ずしも京都を神楽坂のようには思っていないと思うが、修学旅行でしか訪れたことがなかった京都ならば、それは神楽坂の表層と似ていると思えたかもしれない。そんなふうに、経験値によってイメージは変わってくる。東京と京都に住み、働き、生きてきた著者のマップは、いずれか一方しか知らない人のイマジネーションの助けになる。

私はどこへ旅するのでも、そこに住んでいる人と同じことをするのが好きだ。食材を買うとか、洗濯をするとか。一方で、いま住んでいる街を、旅人の目線で眺めるのも好きだ。暮らしは旅であり、旅の日々は退屈することがない。

と、話が脱線したが、この本を読んでいると、京都にちょっと旅をするのではなくて、住んだり働いたり、そこで生きてみたくなってくる。私が人生の大半を過ごしている中央線沿線は、京都でいうと鴨川デルタから叡山電鉄沿線の雰囲気と似ているらしい。
ちなみに、ル・プチメック各店のある場所は、東京でいうと、どこにあたるのか、この本の地図で調べてみた。今出川店は「谷中」、御池店は「恵比寿」、大丸店は「渋谷」、そしてOMAKEは「丸の内、ただし赤羽に近い」(なんだこの例えは!)にあたる。

いつか風景を重ね合わせてみたいと思う。街が変わらないうちに。

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『もし京都が東京だったらマップ』岸本千佳著  (イーストプレス 2016)


著者プロフィール

月刊『月の本棚  清水美穂子のBread-B』毎月24日公開
icon_shi 清水美穂子
ライター・ブレッドジャーナリスト

普段はBread+something good(パンと何かいいもの)をテーマに執筆・発信していますが、ここではBread-B。Bを外してしまって、Reading周辺のsomething goodを書いていきたいと思います。
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