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バンドTシャツ

先日ユニクロでTシャツを買った。いわゆるバンドTシャツというものだ。そのTシャツには、ギリシア神話において法の女神とされるテミスの石像がプリントされている。しかしその石造は縄で縛られ手にもった天秤は紙幣によって傾けられている。ここまで説明するとロック好きの方であれば知っている人もいるかと思うが、これはアメリカのヘヴィメタルバンド「メタリカ」の1988年に発売された4枚目のアルバムである「メタル・ジャスティス」のジャケットがデザインされたTシャツである。そういえば、ここ数年街中で若い人が、メタリカのTシャツしかも彼らが生まれる前であろう頃のTシャツを着ているのを見かける機会が多い。

なるほどユニクロで売っていたからなのか。

「メタル・ジャスティス」は「メタリカ」の歴史上、大きな分岐点ともいえるアルバムである。その一つは新しいメンバーを迎え入れたことである。「メタリカ」は前アルバム「メタル・マスター」において大きな成功をつかみ大規模な世界ツアーを行っていた。しかしそのツアー中、ツアーバスの事故により伝説的なベーシストであるクリフバートンを失った。その後、後任に新しいベーシスト、ジェイソンニューステッドを迎え入れてアルバム製作に臨んだのがこの「メタル・ジャスティス」であった。
そしてもう一つは、アルバムを通して社会的なテーマに取り組んでいる点である。タイトル曲である「…And Justice for All」は腐敗した法曹界を描いた同名の映画をヒントに司法システムの矛盾点を題材として取り上げているほか、グラミー賞を受賞した「One」は小説「ジョニーは戦場へ行った」をヒントに作られている。この「One」で「メタリカ」は初めてミュージック・ビデオを制作、原作映画のシーンが挿入され、戦争によって手足を失った兵士が研究のために機械に縛り付けられ、生かされている恐怖が描かれる衝撃的な内容であった。

一枚のTシャツから、壮大なストーリーに思いを馳せるロックファンと、ファッション的なアイコンとして着こなす現代的感覚と、交わることのないねじれの関係に思いを巡らした。

mde

 


著者プロフィール
月刊連載『パイント・オブ・ギネス プリーズ!』毎月8日公開
icon_naga長濱武明(音響空間デザイナー・アイルランド音楽演奏家)

1992年に初めて訪れたアイルランドでアイルランド音楽と特有の打楽器であるバウロンに魅了され、以来十数回の渡愛の中で伝統音楽を学び、建築設計の実務も経験する。現在は音響空間デザイナーとしての業務をこなしながら、国内におけるバウロンプレーヤーの第一人者として国内外で演奏活動をする他、プロデューサーとしてコンサートやワークショップを主催している。
バウロン情報サイト バウロニズム https://www.facebook.com/Bodhranizm