bn_shirotsuki

約束の賞味期限。

或る日、パン屋のNさんが私に言った。
「内藤さん、コラムの連載お願いできます?」
「私の話なんて面白くないよ。ライターやけど原稿下手やし(どんなだ)」
「僕がいいからいいんです、じゃあ出来るときからよろしく」
「了解」

(ここで2年以上の歳月が一瞬にして流れ去る)

言い訳させてください。
Nさんとの約束を忘れたことは、なかった。
ただ、二の足踏みふみ、気持ちは前へ、体は後ろへ(手はドラえもんばりに、グー)
だって、締め切りが毎月同日に来るなんて恐ろしい(それでも社会人か)
しかしちょっとした体験がもとで、「よし、Nさんのコラムも出来るぞ」と勘違いに近い自信を胸に抱き、「近々、スタートするね!」と、厚かましくも心軽やかにメールした。

意外なほど素早い返事に、ちょっとウキウキして目を通すと
「もう、いいです」だった。

その一言に、Nさんの失望やら何やらがはっきりと見て取れた。
そりゃそうだ。何年放置したんだよ、仏様の顔ですら三度までだぞ。
私はコラムが書けなくてもいいから、Nさんを失望させたことを兎にも角にも謝った。
その結果、「じゃあ、よろしく。書けない月はパスでもいいから、そのときは連絡してくださいね」と、仏のNさんから許可が出たため、現状報告(原稿制作よりも)は忘れないぞと心に決めて今これを書いている。

今回の一件は、私にとってはNさんとの約束という認識があり、それをずいぶん持ち越してようやく果たし始めたのだけれど、「約束の期限っていつまでだろう」と、ふと考える。
「いつか一緒に仕事をしたいですね(いつかは知らんけど)」「ぜひー(ほんまかいな)」なんてやりとりはわりとある。この手の会話は基本的にほぼ社交辞令であり、約束ではない。ボンクラな私にでも分かるが、実際に「あのとき話しましたよね! あれ、やりましょう」と実現することも意外とあるのだ。
例えば、京都の竹中木版・竹笹堂の5代目竹中健司さんと共に、3年ほど前に<紙と暮らす京の一年>が出版できたのも普段の他愛ない会話から。もうふた昔ほど前からの付き合いだから、何とまあ気の長い話。

そしてまた今年、いつかの「いつか」が実現することになった。
<salmiakki>というフィンランドデザインのショップを営んでいたオーナーは、「いつか仕事を一緒にしたいなあ」と12年の付き合いの中で何度か言ってくれていたが、今回その機会が来たと言い出した。
「<salmiakki>はクローズして、6月中旬に新しく<keiokairai(ケイオカイライ)>というライフスタイルショップをオープンするんです。その一角にスペースを設けるから、内藤さんもショップをしてみたら?」。
えええ? 本気ですか?
こうして私は、心の準備が追いつかぬまま、今まさに部屋にペンキを塗りながら、<好事家 白月>をオープンすべく準備中。
今回あれこれあって、私の周りで交わされる口約束という名の約束はわりと実現され、そして賞味期限が長いと思い知った。何となく嬉しい気持ちになる一方で、「まてよ。果たせてない約束がまだあったり…しないよなあ。知らぬ間に、不義理をしてたら…」と、落ち着かない気分に。
万が一、賞味期限切れ寸前のお約束がございましたら、ご一報くださいませ。

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入り口に貼られたモザイクタイル。これもまたご縁。5年ほど前、事務所にモザイクタイルを貼りたくて、探してたどり着いたのがオザワモザイクワークス。今では一緒に仕事をしており、今回は私の店の開店を祝って協力してくださった。


著者プロフィール
月刊連載『或る日。』毎月20日公開
prof_shirotsuki内藤 恭子
ライター・編集などの仕事をしながら、不定期にオープンする<好事家 白月>を主宰。
https://www.instagram.com/shirotsuki_kyoto/