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21世紀生まれのつくるもの。

ここ数ヶ月の間に身近に起きた一番大きな事件と言えば崎山ショックだろう。浜松の高校一年生、崎山蒼志くんがAbemaTVにてバナナマン日村さんがやっている「日村がゆく~第3回高校生フォークソングGP~」に出演した事がきっかけで、名だたるミュージシャンたちが絶賛し一躍時の人になってしまった。もちろん彼自身の才能は際立っていたのでいずれ世に出る人だろうと思っていたけれども、あまりの速度での人気沸騰ぶりにこれがSNS時代なんだなと面白かった出来事であった。

蒼志くんのブレイクをきっかけに、一緒に活動をしていたおおたりお(Rio)さんや諭吉佳作/menさんなど静岡西部の10代ミュージシャンにもスポットライトが当たった。浜松の音楽シーンが熱いだとか、私も浜松住みたいとか、さすが浜松は音楽の町だねみたいな意見もSNSで見てとれた。とはいえ浜松の音楽シーンなんて実際小さいものだ。東京の方が圧倒的に面白い、地方に限定したって福岡などの方がセンスのある若いミュージシャンが多数登場している。しかし15歳にしてあんなに音楽に通じている崎山蒼志くんや、周りにもセンスを感じる10代ばかりだから浜松は音楽の町に違いないというイメージ、シーンが育っていく最初はそんな小さな所からだったりするものかも知れない。崎山ショックは浜松にそんな希望をもたらした。

蒼志くん周りで僕が一番驚いたのは諭吉佳作/menさんだった。蒼志くんとツイートでやりとりしているのを見てプロフィールから音源を聴いたら本当にたまげた。歌の上手さや中学三年生が書くにしては大人びた歌詞に対してではない。歌の後ろで鳴る演奏(今風にトラックと呼ぶことにする、笑)が90年代R&Bをベースにしながら音数を減らしメロウ度が高いサウンドで驚いたのだ。これは今世界中でインディーR&Bあるいはベッドルームポップとそれが融合したドリーム・ホップと呼ばれるような人たちがやってるサウンドと完全に共鳴していた。ネオソウルあたりに由来するずれたリズムも独自的だけれども意識してる感があるし、転調の入れ方も独特。だから最初聴いた時、諭吉さんにツイッターで聞いたのは「トラックは自分で作られているのですか?」であった。ガレージバンド(Apple製の音楽制作アプリ)で自分で制作しているというトラックは、荒削りではあるけれども中学生の女の子が作るにしてはあまりにセンスが良すぎたのだ。

僕が他の人たちよりも彼女に惹かれるのは、弾き語りという良い歌を聴かせるというステップから、録音されたものを人に聴かせるという段階を最初から気にかけているところだろう。僕はポップミュージックが好きなので、どんなに優れたメロディや歌詞も良いサウンドに乗らないと実はそれほど興味がない。だからシンガーでありトラックメイカー、それも海外の現在進行形の音に共鳴した(無意識だとしても)サウンドを制作する諭吉佳作/menさんの登場こそ、浜松の音楽のこれからを照らす希望だなと感じている。願わくは彼女の登場に刺激された10代の宅録シンガーあるいはトラックメイカーが出てきたら面白いだろうなと思う。浜松にも出てきたらいいな。21世紀生まれのクリエイター達から目が離せない。

ディスク紹介:c_siphon26-2
諭吉佳作/men 「night pool」(self/2018)
https://soundcloud.com/yukichikasaku/night-pool

 


毎月22日公開 月刊『片隅の音楽』
icon_siphon宮下 ヨシヲ
グラフィックデザイナー
Siphon Graphica(http://siphon-graphica.net/)主宰

1976年、愛知県豊橋市生まれ。グラフィックデザイナー、ブックデザイナー。高校生の頃より英米インディー音楽に傾倒し、大学在学中にZINE制作を始め音楽誌に音楽ライターとしてキャリアをスタート。自ら雑誌制作の全ての行程に関わりたいとデザインを学び出版社、広告デザイン会社を経て、2008年サイフォン グラフィカ設立。2013年浜松に事務所を移設。現在はブックデザインを主なフィールドとしながら、ショップなどのトータルデザイン、パッケージなども手がける。

写真/けーたん(@keitan_official