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7月 白くま

 7月最大の関心事は、鹿児島市の天文館にある〈蜂楽饅頭〉のかき氷がいつ始まるのかということだ。鹿児島なので、当然ながら「白くま」もあるけれど、それよりも小ぶりな「こぐま」を心待ちにしてジリジリしている。
 ぼくがはじめて白くまを食べた場所は、同じ天文館にあった〈ママ〉という喫茶店だった。かき氷に果物が何種類か、それもかなり大雑把な切り方でドンとのっていて、コンデンスミルクがたっぷりかけてあった。それからは、鹿児島の夏といえば〈ママ〉の白くまだったが、残念ながらこの店は商売をやめてしまった。
 鹿児島の友人たちが口を揃えて「白くまならパラゴンです」と言う。なんのことかと思ったいたら、鹿児島でいちばん美味しい白くまが食べられるのは市内ではなく、いちき串木野市にあるジャズ喫茶〈パラゴン〉だという話だった。それで、すぐに連れていってもらった。JBLのスピーカー「パラゴン」から流れるビル・エヴァンスを聴きながら食べるしろくまは、〈ママ〉よりもずっとエレガントに感じた。ただ、この店のメニューに白くまがあるのは、夏至から秋分までと決まっているらしく、タイミングが合わずに食べられない年もある。
 数年前の夏、天文館を歩いていて〈蜂楽饅頭〉の店先に「氷」という旗がぶら下がっているのに気づいた。夏はかき氷を食べられるのかと嬉しくなった。なにしろ〈蜂楽饅頭〉のあんこはすごく好みの味なので、ミルク金時なんかがさぞかし美味しいのだろうと思い中に入る。貼り出された品書きに白くまもあったが、それよりもこぐまというのが気になった。どう考えても白くまよりは小さいだろう。ぼくは昨今のかき氷の巨大化、氷壁化に異を唱える男なので(あんな大きくては食べ切れない)、小があるのは歓迎すべきことだ。
 目の前に運ばれてきたこぐまは理想的なサイズだった。フルーツも小さくカットしてある。そして食べ進むと中から白餡が現れた。そこで思った。蜂楽饅頭にも白餡と黒餡(小豆餡)があって、ぼくは白が存在することすら腑に落ちないような黒派なのだが、鹿児島には白餡ファンがたくさん存在する。だから、自動的にこぐまの中の餡も白なのかもしれない。それで別の日にこぐまを頼む時に、白餡を黒餡に変えてもらえないかとお願いしてみたら、「たまにそう言う人がいらっしゃいます」と、快く引き受けてくれた。これでようやく理想のものにありつける。白くまの小ぶりサイズのこぐま。その白餡を黒餡に変えたもの。ところが、ぼくにとっての理想のはずの「黒いこぐま」を食べてみたら、どうもピンとこない。認めたくはないが、これは絶対に白餡が美味しいと言わざるを得なかった。まあ、だからこその白くまなのだろう。こぐまに関しては、ぼくも白であることに黙って従うことにした。
 とここまで書いてから正直に告白すると、実は今年はすでに白くまを食べている。4月のことだ。それも北海道の旭川市で。〈ぶんご〉という釜飯と甘味の店があって、ここの白くまも嬉しい小ぶりサイズである。だからか、いつもの年ほどは、いま焦燥感に駆られていない。

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著者プロフィール

月刊連載『好物歳時記』毎月2日公開(に変わりました!)
icon_okamoto岡本 仁(おかもと ひとし)

ランドスケーププロダクツ
北海道生まれ。いろんな町をブラブラして、いつも何か食べてる人
と思われていますが、いちおう編集者です。
著者は『ぼくの鹿児島案内』『ぼくの香川案内』『果てしのない本の話』など。
雑誌『暮しの手帖』で「今日の買い物」という旅エッセイを連載中。