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元祖サンプリング楽器。

先日AIが作曲したビートルズ風の曲というものを聴いた。人工知能に過去のビートルズなどのポップソングを大量に学習させ、新たな曲を仕立てるというプロジェクトだ。歌はさすがに人間が歌っているので、言われなければコンピュータが作ったとは気付かないレベルのクオリティであった。AIってもはやこんなレベルまで来ているのだなあと驚いてしまった。数年前、浜松の幼稚園や小学校に配布される絵本の企画として、“楽器のまち”浜松の未来像を書いたことがある。そこでは歴史上のあらゆる音楽家の作風を解析、アーカイブ化したスーパーコンピュータの音楽版ができて、作曲を依頼したり、演奏を頼んだりできるようになると希望を込めて綴った。自作曲にジミ・ヘンドリックスを学習させたコンピュータにギターを弾いてもらったり、エルビス・プレスリーのクローンに歌付けしてもらったりできたら楽しいに違いないと。そういう未来もすぐそこまで来ているのかもしれない。

そういえば最近ダウンロードしたiPad用アプリ(iphone版もある)のiOptiganにはまっている。70年代に玩具メーカーのマテル社から子供向けに発売されたオプティガンという鍵盤楽器のエミューレーターアプリであるのだが再現度がかなり高く優秀である。オプティガンは現在でいうとAppleのGrage Bandのオートプレイに似たシステムで、アコーディオンの左手のボタンのようなコードキーを押すだけでコードバッキング演奏してくれるというもの。Grage Bandは単一の楽器の音色だが、オプティガンはバンドやオーケストラの録音が各コードごとに用意されている。ボサノヴァやファンク、カントリーなど様々なジャンルが録音されたディスクを読み込むことでその演奏を得られるのだ。主旋律を自分で演奏すればバックバンドが半自動で追随してくれるという70年代としては夢のような楽器だ。iOptiganは当時のディスクも有料だがほとんど手に入る。1,000円も出せばオプティガンという希少な楽器の機能が手に入ってしまうのだ。じつに良い時代だ。

コード演奏の他にもドラムブレイクやホーンセクションなどのフレーズなどを再生するエフェクトボタンが用意されたオプティガンは、サンプリングマシンの先祖といってもいいだろう。後のヒップホップに影響があるのかどうかはわからないけれど、編集により音楽を作るという発想を初めて楽器に持ち込んだオプティガンに魅了されたミュージシャンは少なくない。1998年にOptiganally Yoursというオプティガンだけを使用して丸々1枚アルバムを作ってしまったグループがいる。98年というとThe VerveのBitter Sweet Symphonyがローリング・ストーンズからサンプリングした曲でヒットを飛ばし、サンプリングの問題から著作権から印税まで全部ストーンズ側に持っていかれ、サンプリングやコラージュで音を作るのがだんだん難しくなってきた時代だ。Optiganally Yoursは著作権が発生する過去のアーティスト作品ではなく、メーカーが元々用意された演奏音源を組み合わせSpotlight onというアルバムを発表した。これが何とも素敵なオプティガンの活用法を提案した。オプティガンに用意されたディスクの録音はチリチリとしたノイズが入っている。それが昔のディズニー映画の音楽をビデオからコラージュしたような何ともレトロ仕上がりになるのだ。

適当にコードを抑えるだけでそれなりの演奏が仕上がるし、この夏は久しぶりに作曲でもしようかと夜な夜なiOptiganを触って遊んでいるわけだけれども、いっこうに作品ができる気配はない。しかしOptiganally Yoursと同じ音源を使えるので完コピが可能だ。それはそれで非常に楽しいのである。

 

ディスク紹介:c_siphon24-2

Optiganally Yours 「Spotlight on Optiganally Yours」(Headhunter Records/2018)
https://www.youtube.com/watch?v=zmc8WTn0TVc

 


毎月22日公開 月刊『片隅の音楽』
icon_siphon宮下 ヨシヲ
グラフィックデザイナー
Siphon Graphica(http://siphon-graphica.net/)主宰

1976年、愛知県豊橋市生まれ。グラフィックデザイナー、ブックデザイナー。高校生の頃より英米インディー音楽に傾倒し、大学在学中にZINE制作を始め音楽誌に音楽ライターとしてキャリアをスタート。自ら雑誌制作の全ての行程に関わりたいとデザインを学び出版社、広告デザイン会社を経て、2008年サイフォン グラフィカ設立。2013年浜松に事務所を移設。現在はブックデザインを主なフィールドとしながら、ショップなどのトータルデザイン、パッケージなども手がける。

イラストレーション:akira muracco(http://akiramuracco.me/top