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3. フリット、フリット、フリット!

今回はバカンス・シーズンにちなみ陽光さんさんの港町を舞台に繰り広げられるフランス・ミュージカル、ジャック・ドゥミ監督の『ロシュフォールの恋人たち』を取り上げようと思う。この映画も今までご紹介した2本と同様に私が10代の初めに観て強い影響を受けた作品だ。
映画雑誌で観たスティル写真に思わず惹きつけられ、これ絶対観たいと思いつめ、母親を説得して日比谷映画街の有楽座に行ったのだった。
オープニングのシーンから圧倒されたのは、今までに観たことのなかったパステルカラーの洪水!ドゥミと言えば、日本では圧倒的に『シェルブールの雨傘』が知られているが、『シェルブール』でもパステルカラーが支配的な画面に魅了される。『ロシュフォール』は、フランス本国では『シェルブール』よりも評価が高いという声も聞くが、カトリーヌ・ドゥヌーヴと実の姉、フランソワーズ・ドルレアックの姉妹競演で公開当時、話題となった。
姉妹が広場を見下ろすアパルトマンで歌う『双子姉妹の歌』は数多くのアーティストがカバーして知られているが、ミシェル・ルグランの魅力全開の感がある。映画の中では、実のところ口パクで,アカペラ・グループ、スウィングル・シンガーズのメンバーら(ルグランの姉のクリスティアンヌ・ルグランなど)が歌っている。明るい印象の夏らしい曲だ。港町の開放的な雰囲気と、若く、美しい姉妹のエレガントだがエネルギッシュなオーラが、弾むようなメロディーを通して伝わってくる。
さて、今回私がスポットを当てたいと思うナンバーは『町から町へ』だ。『双子姉妹の歌』も素晴らしいが、こちらは、ジョージ・チャキリス扮するエチエンヌとグローヴァー・デイル扮するビルの二人組が歌い上げる、忘れ難いナンバーだ。「俺たちは町から町へと旅をしながら 芸をみせるのさ、道は俺たちのすみか」という素敵な歌詞。ルグラン節、ここに極まれり、と言ったお洒落でリズミカルなメロディーに乗り、二人組がスタイリッシュなダンスを披露する。
双子姉妹の母親のイヴォンヌ(ダニエル・ダリューが何ともチャーミング)の営むカフェで所狭しと踊り、二人の若さがほとばしる。
旅をしながらバイクの曲乗りを見せて回る二人は、トラックでロシュフォールに到着早々、マダム・イヴォンヌのカフェで一休み。「ボンジュール、ご注文は?」と尋ねられ「フリット二皿!」と即座に答える。このシーンに、フランスのカフェ事情など全く知らない私は「???」と思った。今なら、そうそう、と納得するところなのだが、当時、フランス人はフライドポテトに目がないなんて想像もつかなかった。『双子姉妹の歌』の歌詞にも「カフェでずっとフリットを揚げながら、ママは私たちを、育ててくれた」とある。人気のカフェ=フリットの美味しいお店、なのである。
二人組の注文に、マダム・イヴォンヌはにっこりして、金網に揚がっている熱々のフリットをお皿に盛り付け、渡す。細目でカリッと焦げ目のついた、いかにも美味しそうなポテトだ。フランスのバカンスにはこれがなくては!この作品には、人々が美味しそうにフリットを食べるシーンが散りばめられている。
「あなたたち仕事は何?」というイヴォンヌの質問に、四方が明け放されたカフェでポテトをつまみながら「俺たち?」と言いながら飛び跳ねるように踊る二人。チャキリスの面目も躍如なら、グローヴァー・デイルの切れのいいダンスにも惚れ惚れとする。まだ幼かった私は、フランス人てこんなに体のこなしが美しいの?と感動した。チャキリスもデイルもアメリカ人だと知ったのはずっと後になってからだった。ああ!
ミュージカル映画『ロシュフォールの恋人たち』には何より明るい陽光が溢れ、人々は人生を楽しんでいる。しかし、物語の構成は緻密で、様々な登場人物が全て繋がっているのだが、容易に出会わない。そのすれ違いのタイミングが実に巧い。そして、ちょっとした仕草や台詞も暗示に満ちていて、ラストに導かれ、他のドゥミの作品にも目配せが効いている。まるでバルザックの「人間喜劇」のようだ。
ミシェル・ルグランのフレッシュな音楽も見事で『ラ・ラ・ランド』への影響はつとに言われているが、こんなメロディー聴いたことがない、と当時は思った。『離れ離れに』の音楽をゴダールから依頼されたルグランは「僕は70曲くらい作ったのに、ジャン=リュックは1曲しか採用してくれなかったんだよ!」と言っていた。ドゥミはそんなことはせずに、ルグランの書いたスコアをたくさん採用した。ヌーヴェル・ヴァーグの様々な監督と仕事をしたルグランだが、監督が変わると音楽も変わる。でもジャズを巧みに取り入れたサントラは、いつ聴いても飛び切り楽しい。
人生色々あるけど、自由が一番!フリットつまみながら、好きなように生きよう!そんなドゥミのメッセージが充ち溢れているこの作品。フランス人の自由に対する飽くなき渇望を強く心に刻みながら、エンドマークを観る私たちの心でも、沸き起こる希望が夏の讃歌を奏でる!

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著者プロフィール

月刊『La rose des vents「風の薔薇」』毎月3日公開

田村 恵子 (青木 恵都)

東京生まれ。
文学、映画とパンをこよなく愛する。アポリネール、ヌーヴェル・ヴァーグ、ハード系パンが好きです。最近は夫が立ち上げたタムラ堂刊行の『夜の木』などを青木恵都という名で翻訳。
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