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第二十八回 BANK

先日、うちのカフェで新しい夏のドリンクを作りました。名前は「KISS ME GOODBYE」。ジンを効かせた透明なゼリーをトニックウォーターで割った爽やかなドリンクです。この名前、一瞬「ギャグなの?」とか「なかなかオーダーしにくい名前やな・・・」とか「そんな顔して意外とロマンチックなんですね」などなど、知り合いを中心に少しザワザワさせたようですが、もちろん、ふざけているわけではなく色々考えた結果、付けました。

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instagramをはじめとしたSNSで見栄えすることを主な目的としたデザインやメニューが日々生み出されている(当店含め)のを見てるうちに、逆に全く写真映えのしない、見た目にあまり特徴のないドリンクを作ってみたいと考えました。名前も、通常カフェのドリンクとかだと「ジンゼリーのソーダ」とか「ジンゼリーのトニックウォーター割り」とかいった感じにしちゃうんですけど、それもありきたりで面白くない。コンセプトから考えて「名前をつけない」とか「無題」という意見も出ましたが、なんかそれもアートっぽいというか、こじらせてるというか、ちょっと鼻に付く感じがして却下。で、何となく「KISS ME GOODBYE」というカクテルみたいな、あえてカッコイイ名前にしました。昔見た映画のタイトルから拝借したのですが、内容はよく覚えていなくて、奥さんが亡くなって亡霊として現れるといったような切ない内容の映画だったような・・。透明で写真に写らないこのドリンクにはもってこいだと思いました。お客様が「カレー・・と、食後にKISS ME GOODBYEを」と、少し照れながらオーダーされる感じがなかなか素敵で、気に入ってます。

名前に関して言えば、SONGBIRD FURNITUREには、「BANK」というソファがあります。もうデザインしてからかれこれ十数年くらい経つ、私自身も大好きで、とても思い入れのあるプロダクトの一つです。

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で、このソファでとても多いご質問が「なんでソファの名前が’’銀行’’なんですか?」というものです。このやり取りは本当に今まで何回してきたか判りません。実は、このBANKというソファ、同じ「BANK」でも銀行の方じゃなくて、「BANK(土手)」の方の意味で付けたのです。デザインコンセプトはこうです。

「いつもと同じ横並びじゃなくて、堤防や土手に座って話すように、目線の高さを変えたり、体勢も一方は座っていたり一方は寝ていたり出来たら、いつもは言えない事が言えたり、今までとは違うコミュニケーションが生まれるんじゃないか」という想いからデザインし、そのままBANK(土手)という名前を付けました。背もたれの上の段にも座ったり寝転んだりできます。

今、思い返せばちょっとエモいコンセプトに少し甘酸っぱくもなりますが、当時はこのソファに、これ以上ぴったりな名前は無いと思いました。いや、むしろデザインと同じくらい重要な名前です。

とはいえ、その時は「BANK」という単語が「土手」という意味以外に「銀行」という意味を持つ事は、さほど気にしていなかったのですが、今思うともう少しよく考えておくべきでだったかななんて思います。「BANK」という名前と製品の関係性はすごく気に入ってはいるのですが、その後ほとんどの人が銀行の事だと勘違いしてしまった事を考えると、逆に名前のせいで少し製品のコンセプトが伝わりにくくなったのかなと少し反省しています。

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名は体を表すなんて言いますが、「体」以上に作った人の想いや考えだったり、苦悩の跡を表すこともあると思うと、ネーミングも奥深いものですね。


著者プロフィール
月刊連載『月刊 唄鳥』毎月5日公開
icon_songbird徳田 正樹
インテリア・プロダクトデザイナー
SONGBIRD DESIGN STORE.」代表

京都生まれ。大学卒業後、内装会社勤務を経て、1999年「IREMONYA DESIGN LABO」の立ち上げに参加。その後、2008年まで同社のデザイナーと代表を務める。2008年退社後、Masaki Tokuda Design.設立。2009年に、京都でカフェを併設したインテリアショップ「SONGBIRD DESIGN STORE.」開業。