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音楽のキキカタ(その2)

音の良いCDのリファレンス(基準として参照する)の一つとしているものに、和太鼓グループ「鬼太鼓座」の「富嶽百景」がある。このCDは1997年に日本ビクター創立70周年を記念して作られたもので、オーディオ評論家からも非常に評価が高く、標準のCDのほかクリスタルCD※ も発売されている。調音されたスタジオの調整されたオーディオシステムで聴くこのCDは、まさに和太鼓が置かれたステージが目の前に広がる。「鬼太鼓囃子」(Track1)では五つの締め太鼓の演奏がそれぞれの位置でしっかり定位し、「鼕々(とうとう)」(Track6)では直径225cm・重さ3トンの大太鼓「大和」が打ち抜かれる迫力と太鼓の皮の波打つ余韻を楽しみ、そしてモノクロームⅡ(Track9)では、静寂からのダイナミズムを感じることができる。初めて聞いた時はほんとうに鳥肌がたちオーディオ「原音再生」の奥深さを改めて知った。CDのブックレットによると、トラックによってはあらかじめスタジオでマルチ録音された大太鼓以外の音源をホールに持ち込みスピーカーで再生させ、大太鼓の生演奏と合わせて再度録音するといった録音方法が解説されている。このような製作手法を考えたとき、「原音再生」を「録音している時の音」と定義した場合の、演奏者が演奏している生の音をそれぞれの楽器の配置、音の大きさやニュアンスなどが再現されること、を基本にしながら、「録音されている音」と定義した場合の、演奏者の演奏した音のみならず録音編集を含めた製作側の意図した音、を再現させようとしており、「原音再生」の定義を高度な技術とセンスによってうまく融合させ、一つの再生芸術の世界を作り上げていると感じた。

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※クリスタルCD
CDの基板部分にガラスを用いることによって、通常のポリカーボネートに比べ、温度・湿度・化学物質による反りや透明度の経年変化が少なく、複屈折による影響が少ないため、音質がクリアであると言われる。ただし製作コストがかかることから1枚10万円以上のタイトルが多くマニア向けの商品とも言われる

(つづく)

 


著者プロフィール
月刊連載『パイント・オブ・ギネス プリーズ!』毎月8日公開
icon_naga長濱武明(音響空間デザイナー・アイルランド音楽演奏家)

1992年に初めて訪れたアイルランドでアイルランド音楽と特有の打楽器であるバウロンに魅了され、以来十数回の渡愛の中で伝統音楽を学び、建築設計の実務も経験する。現在は音響空間デザイナーとしての業務をこなしながら、国内におけるバウロンプレーヤーの第一人者として国内外で演奏活動をする他、プロデューサーとしてコンサートやワークショップを主催している。
バウロン情報サイト バウロニズム https://www.facebook.com/Bodhranizm