bn_shirotsuki

老舗でお買い物。

或る日、懐かしい本を手に取った。

かつて手掛けた<京都を買って帰りましょう。>という京都土産の本。
調べてみたら、発行は2007年だった。
ヒエッ、なんと月日が経つのは早いものか。
愛読してくれていたという編集者が、「本を片手に京都を回ったもんです。あんな企画を今回の京都特集号でやりたい」とオファーしてくださった。
そんなことを言ってもらえると嬉しくて、ニッコニコでお受けした(単純だから)

私自身、京都土産を買い求める機会は多いが、「何となく京都っぽい」だけのものは物足らない。
京都らしいエピソードのあるものをと心掛けているが、結局は長年愛されてきた老舗のものに行き着くことが多い。
京都はある意味、手土産に厳しい土地でもある。
手身近に済ませた感がにじみ出たら、「ああ、そういう扱いしはるんやね」と思われる(恐ろしい)逆に、気が利いたものをお届けすると、株が上がることもある(必ずとは言いません)
だから、祇園の女将さんたちは手土産達人が多く、時にはおすすめ情報をお伺いしたりする。

久々にあらためてゆっくりと取材させてもらうと、老舗のご主人たちの話はやっぱり面白い。
「ああ、もっと原稿文字量があればなあ」と思うほど(原稿苦手ですけど)
歴史があるが故のエピソードや、長らく屋台骨を支え続けてきた知恵など、「なるほどなあ」と納得できるものから、ちょっと不思議な逸話までいろいろ。

例えば、鯖寿司で知られるいづ重さんでは、未だおくどさんでご飯を炊いている。
本当にすごい。
店の奥の厨房は、機械らしきものは見当たらない。
しいて言えば冷蔵庫ぐらい。
だからここのシャリは、時間が経ってもピカッとしていて味もボケず、見た目にも美しい。
やっぱり、火加減の具合なんだろうと思う。
そしてここには火の神様がいらっしゃるが、ご機嫌斜めな日もあるらしい。
「なんぼ火点けても、シューっと小そうなって消えてしまいますねん。灰もかき出して、掃除してもあかん。ちょっと怖いでっせ」とご主人。
そんな時は、酒と塩をまいて、機嫌を直してくれるよう頼むそうだ。
え? ほんまかいなと思う話だが、それで実際に火が点いて、ご飯が炊けるようになるそう。
不思議だけれど、本当の話。
そんな話は、あちこちにある。

そして、実は老舗の商品は、価格以上に値打ちのあるものが多い。
ご主人たちは一様に、「お客さんに喜んでもらえるように、できるだけ手頃な値段で良いものを提供したい」と口をそろえる。
より丈夫で、より使いやすい鞄を作り続けている一澤信三郎帆布さんでは、年月とともに材料の調達が難しくなり、その結果あらゆる材料をオリジナルで特注してまで制作しているのだ。
しかも、修理も可能。
工房でその作業を見せてもらうと、修理は新品を作るより手間だし、「はっきり言って、それ赤字でしょ?」と突っ込みたくなる丁寧さ。
でも、「製造販売した責任もある。売りっぱなしはあかん」と、その姿勢を守り続けている。
それでも、某ブランドバックより手頃だ。

細かいことに目をつぶれば、今や100円均一で何でも手に入る。
でもたとえ100円で似たものがあっても、「この店の、これじゃなきゃいけない理由」がある。
そういう理由がたくさんある商品がロングセラーとなり、その店は老舗として愛され続けるのだろうなあと思う。

「買い物するということは、その店を支持して、応援するということ」と、言われたことがある。
私たちはそんなことを意識していないとしても、商品だけでなく、店の姿勢も含めて、買い物という行為で、少なからず意思表明していることになる。
売る側も真剣勝負だが、買う側も一買入魂。
真剣に選ぶべし。
その真剣勝負に勝ち残ってきた老舗の底力は、やっぱり凄い。
「もう知ってるし」と言わず、たまに再訪してみるのがおすすめ。
また違った面白さが発見できたり、知らぬ間に新製品が登場していたりもする。
さて、今日はどこでお土産物を選ぼうか。

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いづ重さんの鯖姿寿司。中でもこの極上は、脂のまったり感が格別。そして、割と新製品。


著者プロフィール
月刊連載『或る日。』毎月20日公開
prof_shirotsuki内藤 恭子
ライター・編集などの仕事をしながら、不定期にオープンする<好事家 白月>を主宰。
https://www.instagram.com/shirotsuki_kyoto/