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カフェはお茶するだけにあらず

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『BRUTUS』2000年7/15号「notable caffeine society …で、café」
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『男の隠れ家』2000年7月号「街角の名喫茶」
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『Meets Regional』1999年10月号「「ちょっとお茶しに」の街と店。」
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『Meets Regional』(『SAVVY』共同編集)2000年8月増刊「京阪神Café book」

 惜しくも2回で閉じた『Olive』カフェGPの翌年に出たのが、『BRUTUS』の(多分初の?)カフェ特集。しかもM-froのオリジナルCD付き。『Olive』は“なごみ系”を前面に打ち出していましたが、男性誌となると扉ページからノリが違います。「ここに宣言しましょう、カフェのまったり化は終わったと(たぶん)。」と、ガツンと喝が。こう言わしめた店こそ97年、駒沢にオープンした「バワリーキッチン」。この後に続くカフェの1つのモデルとなった、象徴的な一軒です。
 カフェ特集ではあるものの、巻頭に「バワリーキッチン」だけで16ページものボリューム。来店客スナップに始まり、フロアマップ(キッチン・トイレまで!)、全69皿メニュー紹介、オーナー・山本宇一さん&デザイナー・形見一郎さんインタビューまで、痒いところに(そうでないところも)手が届いた徹底ぶり。その端々に「心地よいテンション」、「『刺激』と『くつろぎ』の共存」といったキーワードが体現されています。かく言う自分も駒沢に詣でた一人ですが、駅から結構歩いたにも関わらず、「1時間待ちは普通」も納得の賑わい。少々気後れしつつ席に収まった記憶があります。
 ただ、今から思えば、「日常と非日常の狭間を巧みに突く、キメすぎず絶妙な隙間を残した空間」(山本さん)は、なごみ系女子だけでなく、男子(まだ“草食系”とは呼ばれていない)にも入りやすいユニセックスな場所として新鮮な存在だったのでは? 社会学者の宮台真司さんのコラムでは、カフェ=「酒を飲むヤツと飲まないヤツが共生できる場所」とも。改めて振り返ると、カフェというよりダイナーですが、「お茶もできるけど食事もお酒も」、というハイブリッドはカフェの在り方と共通。その懐の深さを、洗練して突き詰めた完成形の一つだったように思います。
 ところで、当時はどうも「コーヒーのコトは喫茶店に任せる」みたいな雰囲気があったようで、『BRUTUS』のカフェ特集にもコーヒーのコの字も出てきません。ちょっと硬派なコーヒー党はどこにいたかというと、『男の隠れ家』にいたのかも。「街角の名喫茶」特集では、格調高く「その昔、喫茶店が男の社交場だった時代があった」と始まり、「モボモガ」「ハイカラ」などの懐古的フレーズを織り交ぜた扉ページから、どっぷり琥珀色。本編にも老舗喫茶店がずらりと並ぶ。関西からも八尾「ミュンヒ」、京都「クンパルシータ」(閉店)といった“濃い”店が登場し、誌面は深煎りネルドリップ並の重厚さです。さらに「珈琲の作法」として、喫茶界の重鎮が指南する産地や焙煎、抽出のコツも網羅。「ネスカフェゴールドブレンドのCMの歴史」なんて蘊蓄も満載です。喫茶店もカフェの一員として再評価され始めたとはいえ、この頃は、カフェと喫茶店の世代のカベはまだ厚かったように思います。
 一方で関西。東京との時差はあるとはいえ、着々とカフェは増え、『Meets Regional』1999年10月号では、「喫茶、大充実時代。どうせお茶するならこんないい店。」特集が登場。関西で本格的なカフェ特集としては一番早かったように記憶しています。冒頭、「「カフェ」の根底には、街のワガママを許す寛容さがあるす。(略)人が集まる最も街的な場所の一つとして、いま改めて、カフェと酒場は基本的に同質なものだと思っている。楽しみ方は様々だが、付き合い方はその人次第」とは、『BRUTUS』にも通じる部分が。昼酒の定着にレストランやバーとの融合と、もはやお茶だけに止まらない、「その選択肢を素直に喜びたい」と歓迎ムードが前面に出ています。
 ただ、「今的カフェミシュラン」と謳った巻頭グラビアこそカフェ特集ぽいですが、大充実喫茶図鑑と銘打った「Le café info」では22の項目で、広がるカフェの選択肢を分類。各国の定番ドリンクを店と共に紹介する「カフェで世界旅行」に始まり、おフランスな店からホテル、駅ナカ、お座敷、果ては虎キチカフェ、風俗系喫茶まで、新旧も業態も縦横無尽の分類は、まさに同誌の真骨頂。その最後には、99年に焼失したイノダコーヒ本店の営業再開のニュースがあり、焼失の知らせを聞いた時(ちょうど映画館を出た直後)の衝撃が鮮明に蘇ります。続く「カフェ飯選手権」でも、サンドに甘いものに定食、喫茶店カレー、お好み焼きまで幅広く、カフェと言えども気取らず、同誌ならではの気取らぬノリが随所に。一方で、「水出しがどうとかペーパードリップだからこうとか、そんな蘊蓄も今はもういい」といいつつも、モノクロページでは、しっかり「カフェのお勉強」。しかも、まだバリスタなんて言葉もなかった時期にエスプレッソを取り上げているのは相当に早い。「ミラノ流対ナポリ流」、「実力派レストランの食後の一杯比較」なんて切り口も、5年先を行っていた感があります。
 さらに翌年、『Meets Regional』『SAVVY』共同編集と珍しいコラボ号では、「京阪神のカフェトップ10」とGP形式が巻頭に。三都のGPは、京都「イノダコーヒ」「efish」、大阪「a.f.pure」「シュハリ」、神戸「カフェフロインドリーブ」「トリトンカフェ」の顔ぶれ。その後に、やはり女性誌『SAVVY』とのコラボとあってか、「グッドデザイン」、「カフェフード」、「郊外カフェ」、「+αのカフェ」とジャンル別王道の展開に。しかし、それだけで終わらないのが『Meets Regional』。個人的に最もグッと来たのは、モノクロページに京阪神の老舗喫茶のストーリーをギュッと詰め込んだ「京阪神・正調喫茶店の話」。「キョート喫茶伝説」、「ストロングなにわ珈琲話」、「港町の喫茶店。第三章」と、三都の店と街の関係を掘りこんだ内容は圧巻。自分自身、カフェに関心はあったものの、根が渋好みの喫茶店派だけに、これだけ“掘った”誌面は、喫茶王国・関西の底力を見る思い。よくぞこの時期に残してくれました、と深謝。いまだに関西喫茶関連の貴重な記録として重宝しています。実はこのコーナーにはご縁があって、違う意味でも貴重な一冊になったのですが、それはまた別の話。


著者プロフィール
月刊連載『棚からプレイバック』毎月7日公開
icon_amaniga田中慶一(たなかけいいち)
珈琲と喫茶にまつわる小冊子『甘苦一滴』(@amaniga1)編集人。
1975年生まれ。関西で文筆・編集・校正業の傍ら、コーヒー好きが高じて、喫茶店の歴史から現在のカフェ事情まで独自に取材。訪れたお店は新旧合わせて900軒超。現在、全都道府県1000軒訪問を目標に活動中。2013年から「おとな旅・神戸」http://kobe-otona.jp/ で、コーヒーをテーマにした街巡りの案内人を務める。2017年に『神戸とコーヒー 港からはじまる物語』(神戸新聞総合出版センター)http://kobe-yomitai.jp/book/518/ 制作を全面担当。『甘苦一滴』のバックナンバーDL販売はこちらhttps://amaniga.base.ec/ 。