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音楽のキキカタ(その3)

「音の良いCD」が創り出される以前、1877年にエジソンが円柱型のアナログレコードを発明して以来、1979年にコンパクトディスク(CD)が発表される迄は、アナログレコードが音楽再生メディアの主役であったことは間違いないであろう。そして再生芸術としての音楽が創り出されるレコーディングスタジオは、「良い音」を探求する実験場ともいうべき場所であり、特にレコーディング技術の発達した1960~70年代は様々な逸話が生まれている。
プロデューサー・レーコーディングエンジニアでとして知られる高橋健太郎氏の著書「スタジオの音が聴こえる」では、こういった時代の名盤と呼ばれるレコードを生み出したインディペンデントスタジオにスポットあて、スタジオや機材、エンジニア、ハウスミュージシャンたちのストーリーを紹介している。すべてのジャンルのレコーディングに対応するように作られた大手レコード会社の保守的なレコーディングスタジオに比べ、個性豊かなインディペンデントスタジオが様々な実験を繰り返した結果、この時代急速にレコーディング技術が進歩し、マルチトラック(多重録音)化が進んだことにより、音楽制作自体のプロセスが大きく変わっていったという。そしてその移行期である1972年を、アナログレコードの音の良さのピークとしている考察が非常に面白い。1960年代の2~4トラックレコーディングでは、演奏者たちがスタジオで同時に演奏したものを一発録音するやり方が主で、演奏者はミスの許されないプロフェッショナル性を求められた結果、ある一部の演奏者が活躍する時代であった。しかしマルチトラック(多重録音)化が進むと演奏者たちが同時に録音する機会が減り、1970年代後半の24トラック主流の時代になると、個別のスキルが活かせる環境が生まれたことにより、自由な空気感を吹き込んでいったのだという。1972年は、ちょうどその中間期にあたり、一発録音の空気感を残しながらも、24トラックよりも1トラックあたりのテープの幅が広く音質的にも有利な16トラックの時代に起こった奇跡的にバランスのとれた年であったという。
その後、デジタルレコーディング技術の進歩は、劇的に音楽制作環境を変えていく。
(つづく)

sdr

 


著者プロフィール
月刊連載『パイント・オブ・ギネス プリーズ!』毎月8日公開
icon_naga長濱武明(音響空間デザイナー・アイルランド音楽演奏家)

1992年に初めて訪れたアイルランドでアイルランド音楽と特有の打楽器であるバウロンに魅了され、以来十数回の渡愛の中で伝統音楽を学び、建築設計の実務も経験する。現在は音響空間デザイナーとしての業務をこなしながら、国内におけるバウロンプレーヤーの第一人者として国内外で演奏活動をする他、プロデューサーとしてコンサートやワークショップを主催している。
バウロン情報サイト バウロニズム https://www.facebook.com/Bodhranizm