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「だから宝探しは、やめられない」

前回のコラムで、
夫は海外で、著名人のお墓探しをするのが好きだと書いた。
ほぼ情報がない中、自分だけの観光をする贅沢。
静かで美しく誰もいない場所で、宝探し気分に浸れる旅。
夫は、そんな時間が好きで仕方がないと書いた。

で。
そう。
そうなのよ。

実は、私も夫と同じく、
メジャーな観光よりも、マイナーな観光が圧倒的に好きなわけ。

今まで、いろんな国を旅してきたけれど、
なんでそこに行きたかったの~?と聞かれる場所が多すぎるし、
だけれど行って良かったのよ~!と言いたい場所も多すぎる。

デンマークのコペンハーゲンを訪れた際にも、
そんなふたりの旅を象徴するような宝探しが始まった。

私たちは、コペンハーゲン郊外にある、
学生寮「Tietgenkollegiet」を探し続けたのだ。

え。
どうして学生寮?

答えは、実にシンプルで、
その建物を、この目で見てみたかったから。

もちろんガイドブックには載っていないし、
今ほど情報量もないし、
グーグルマップさんが円滑に連れて行ってくれる時代ではない。

アパートの大家さんに相談してみたら、
「聞いたことないなあ。まったく分からないわ」と、
地元の人も悩んでしまう難問となっちゃうし。

それでも「多分この辺りかなあ?」と、
地図を広げて一緒に考えてくれた大家さんの助言をもとに、
とりあえず最寄りと思われる駅まで行ってみることにした。

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いざ駅に着いてみたものの、あまりに郊外すぎてさっぱり分からない。
歩いて歩いて歩いて、
何もないんじゃないの?という一抹の不安に包まれたその先に、

「ん?あれじゃない?」
「おおー!あれだ、あれだ!」ってね。

うしししし。
ちゃーんと、見つけちゃったもんね。

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すごい。
想像をはるかに超える、その素晴らしさにしばし立ち尽くす。

私たちは、シンプルに、この建物を見てみたかった。
その願いが叶ったこの瞬間こそが、宝探しの極意なわけで、
これだから、宝探しはやめられないのだよ。

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この学生寮のデザインと設計は、「Marianne Levinsen」と「Cowi」。
そして「Lundgaard&Tranberg」社のコラボレーション。

特定大学の寮ではなく、
どこの大学生でも、30歳以下であれば入居権利があるらしい。

ひとつひとつの部屋をずらしたような設計と、
ドーナツ状に建てられた「角ばっているのに丸いフォルム」が面白い。

複雑に見えて、決してチグハグしていない、
絶妙に美しいバランスを持つこの建物。
そのドーナツ状の寮の真ん中には、ホッとする優しい中庭。

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こういう建物って、ありそうでない。
そしてここが観光地でもなんでもなく、
学生たちが普通に暮らす場所だっていうことがすごい。

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どうやらお隣の建物がコペンハーゲン大学だと知り、
行き当たりばったりついでに入ってみる。

入ってまず驚いたのは、共同エリアの風景。
ルイス・ポールセンの照明や、
ハンス・ウェグナーのYチェアが、ごく当たり前に使われている。

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彼らは、心地良い椅子に座って食事をし、友達と話し込み、勉強をする。
質実に優れた北欧デザインに慣れ親しみながら、人生を重ねていく。

北欧では、空港、教会、図書館、美術館、役場、学校などの公共施設に、
有名なデザインチェアやプロダクトが、普通に使われている。
その当たり前の環境が、北欧の凄いところなんだよね~。

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子供からお年寄りまで、どんな人でも、
普通に「良い椅子」に座ることができるし、
普通に「良い製品」を実感しながら生活ができる。

子供の頃から、
座りやすい椅子というものを身をもって感じ取り、
機能的なプロダクトの使いやすさを知り、
その美しさに触れる機会が、公共の場に溢れている。
それが、北欧で感じられる豊かさだといつも思う。

う、う、羨ましいよお。

この心豊かな環境が羨ましすぎるんだよお。

こちらの美術館の中にも、普通にYチェアが置かれていて、
ここを訪れる子供からお年寄りまで、
この名作椅子に座りながら、
自由に作品を感じ、考え、芸術を楽しむことができるようになっている。

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私は時折、
「北欧だと、どこがおススメですか?」と聞かれたりするけれど、
あそこの角を曲がった先にある道、
だとか、
あの辺りにあるはずのカフェ(なくなっていたら、その跡地)
だとか、
相手が困ってしまう場所ばかりを教えたくなる悪い癖がある。

だけれど。

この学生寮は、ドーンと胸を張っておススメしたい。
駅の名前はすっかり忘れちゃったし、観光地でもないけれど、
この建物には、一見の価値がある。

そして、隣の大学にも立ち寄って、
そこで過ごしている学生たちと一緒に、
ウェグナーの名作Yチェアに座りながら、
お茶の一杯でも飲んでみたりすることは、
かなり、おススメだと思うんだけどなあ。

 


著者プロフィール

月刊連載『旅のち、たびたび北欧へ』毎月16日公開
prof_shiho伊藤 志保(いとう しほ)

カフェ「istut」のオーナー&厨房担当
自らが買付ける北欧ヴィンテージショップ「2nd istut」も営む
古いモノ、ヨーロッパ、蕎麦、ワインが好き
1969年生まれ 長野市出身