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10月 芋の子汁

 「芋煮会」という言葉をはじめて耳にしたのは、大学生の頃に友人を訪ねて仙台に行った時だった。実際に食べたわけではなく、ただ話に聞いただけ。芋と言われれば自動的に「ジャガイモ」を思い浮かべる道産子にとって、芋煮の芋は「里芋」だということが驚きだった。
 数年前の秋に山形に出かけた。案内をしてくれた友人とのんびり河原を歩いていて、彼が「もうちょっとしたら、このあたりは芋煮会でごった返してますよ。スーパーも芋煮セットが山積みになるはずです」と言った。もちろん大人になって久しいから、里芋を煮た汁料理は食べたことがあるし、芋煮が東北地方の秋の風物詩であることも知っている。ただ「芋煮会」という言葉が引き金となって、どうしても本場の芋煮が食べたくなってしまった。友人にどこか芋煮を食べさせてくれる店を知らないかと訊いたら、ちょっと困った顔をした。結局、観光客向けであろう山形名物を売りにした居酒屋に連れていってくれたのだが、芋煮を食べながら、彼は「自分たちでつくる以外の芋煮を食べたことがないので、いい店が思いつかずスミマセン」と謝った。そういうことなら謝るべきは自分のほうである。
 つい先日、盛岡の酒亭で芋煮が出てきた。「そうか、芋煮の季節ですね」と知ったふうなことを口にしたとたん、「芋煮は山形で、岩手だと芋の子汁と呼びますね。山形は醤油味が一般的だと思いますが、このあたりは赤味噌の汁です」と、盛岡在住の知人が教えてくれた。さらにかぶせるように、同席していた秋田出身の友人が「秋田は鍋っこって呼びます。ぼくらの田舎は白味噌仕立てです」と言う。
 そういえば、前日の夜に「nabecco」と胸にプリントした長袖のTシャツを着ている男を見かけたのだが、あれはもしかしたら「鍋っこ」のことだったのだろうか。秋田出身の友人が「ああ、アイツは秋田からたまたま遊びに来てた、ぼくの知り合いですよ」と笑った。
 今年の晩秋は、東北のどこかの河原で里芋を鍋で煮てみんなで楽しみたいと思う。ただし、参加者の出身地に注意していないと、味付けの時にかなり揉めそうだ。

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著者プロフィール

月刊連載『好物歳時記』毎月2日公開
icon_okamoto岡本 仁(おかもと ひとし)

ランドスケーププロダクツ
北海道生まれ。いろんな町をブラブラして、いつも何か食べてる人
と思われていますが、いちおう編集者です。
著者は『ぼくの鹿児島案内』『ぼくの香川案内』『果てしのない本の話』など。
雑誌『暮しの手帖』で「今日の買い物」という旅エッセイを連載中。