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第三十回 BOBBY

オーダー頂いた家具を納品する際、距離とスケジュールが許す範囲限り、出来るだけ全て立ち会う事にしている。もちろん、最後まで責任を持って届けるというのもあるが、それはほぼ建前で、単純に出来上がった製品を最初に目にする時のお客様の反応が見たいからというのが本当のところである。
デザイナーにとって、その人のためにデザインし、製作したものを届ける場に立ち会えることほど楽しく嬉しい事はない。この仕事を続けている最大の理由である。

今年の初め、我が家にも子供が生まれた。いつの間にか、おもちゃや絵本、ぬいぐるみなんかが増えてきたので、おもちゃ箱が必要になった。
実は、以前から、いや厳密に言えば自分の子供のためのおもちゃ箱には、十数年前から決めていたものがある。

「BOBBY」というキャスター付きの収納ボックスである。素材は、「ファイバー」という硬質パルプ。元々昔から使われていた丸い取手と口のような取手を組合せて、顔のようになっている。「IREMONYA DESIGN LABO(現 IREMONYA)」というブランドの製品で、およそ19年前に、僕がデザインした。

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「徳田家のBOBBY」

この「ファイバー」という素材を使った収納は、今はあまり見かけなくなったが、80年台後半から90年代を中心に商業施設やオフィスなんかでよく使われていた製品である。当時、京都にあったその専門店に、まだ20代半ばだった僕は転職することになった。その「ファイバー」を使った一般ユーザー向けの新商品をデザイン・開発するのが、僕の最初の仕事だった。

素材についてや生産工程などを深く知っていくうちに、「軽くて丈夫かつ安全」というファイバーの特性は子供向けの収納に適しているのではという思いに至る。
しかし、それまで大学を出てからの3年間、内装の会社で百貨店の売場や、モーターショーなんかの展示会などの設計しかしたことが無かった僕は、何かプロダクトをデザインすること自体初めてだった。
直接のクライアントのいない仕事。ましてや子供向けの商品をデザインするなんて、進め方すらも皆目検討がつかない。誰のためにデザインすればいいのか、どんなものを作れば子供は喜んでくれるのか・・。

いろいろ苦悩した結果、シンプルに将来自分の子供に使って欲しいもの、親である自分自身も欲しいと思えるものを作ることにした。
まだ見ぬ自分の子供を想像し、最初にデザインしたのが「BOBBY」だった。目指したのは、子供が生まれてから、最初の友達になれるような存在で、成長していく過程でもずっと使い続けることのできる強度とデザイン。そのために、笑顔と泣顔という表情を持たせ、商品名ではなく人間のような名前をつけた。その後「EDDIE」や「CHARLIE」など、仲間もどんどん増えたこのシリーズは、有難いことに沢山の人たちに支持して頂くことになった。

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「CHILD BOX シリーズ」

いつか自分にも子供ができたら・・・と思って、当時オーダーして、ずっと大事に使ってきた特注色のBOBBYを息子に渡す日が来た。かくして十数年の時間を経て、自分の子供にそのデザインは届いた。同時に十数年の時間を経て、親として、デザイナーとしての自分に届いたご褒美のようでもあった。息子がBOBBYを揺らし、BOBBYに何か嬉しそうに話している。こんなに、何かをデザインして良かったと思う納品に立ち会ったことはない。


著者プロフィール
月刊連載『月刊 唄鳥』毎月5日公開
icon_songbird徳田 正樹
インテリア・プロダクトデザイナー
SONGBIRD DESIGN STORE.」代表

京都生まれ。大学卒業後、内装会社勤務を経て、1999年「IREMONYA DESIGN LABO」の立ち上げに参加。その後、2008年まで同社のデザイナーと代表を務める。2008年退社後、Masaki Tokuda Design.設立。2009年に、京都でカフェを併設したインテリアショップ「SONGBIRD DESIGN STORE.」開業。