title_nagahama

音楽のキキカタ(その4)

レコーディング技術において様々な逸話の生まれた1960-70年代のアナログレコード時代からCDへと時代が移ってくると、レコーディング技術もデジタル化が急激に進んだ。それまでは沢山の機材を組み合わせフィジカルな調整を行っていたものが、近年のようなマルチトラック録音が標準化したデジタルレコーディング技術においては、トラック数を簡単に増やし音質の劣化なく重ね合わせることが出来るため、1人〜数人程度の演奏家が録音出来るようなスペースさえあれば、パソコン一台でも音楽制作が十分可能となった。
こういった環境の変化によって、1990年代半ば以降、プロダクション自体が更に小さな規模で完結するようになると、限られら予算での作品制作も可能となり、多くの演奏家達が制作のチャンスを得るようになった。

アイルランド伝統音楽の演奏家デックラン・フォラン(Declan Folan フィドル奏者)とジュニア・デイヴィー (Junior Davey バウロン(アイルランドの片面太鼓)奏者)という2人が1996年に制作した「Skin and Bow」というアルバムは、けっして恵まれたレコーディング環境ではなかったものの、アイルランド音楽愛好家から大変高く評価され、また演奏家たち特にフィドル奏者とバウロン奏者からはバイブル的な扱いを受けている。これはデックラン・フォランとジュニア・デイヴィーの2人がアイルランド伝統音楽コンペティションのチャンピオンであり、その優れた演奏技術によって、アイルランド伝統音楽の躍動感を見事に記録したからに他ならないのではあるが、元来アイルランド伝統音楽は非常にパーソナルな音楽で、大きなホールで演奏されるよりもむしろ生の楽器の音が聴こえる程度の範囲で伝わるもので、大きなプロダクションの中で制作されるよりもむしろ、小さなプロダクションで制作された方が、その本質を伝えやすいということも関係していると考えている。つまり、大多数の人達がポピュラリティーに縛られた大きなプロダクションによる再生芸術に安心感を求めるに対し、一部の人達にとってはパーソナリティを活かした小さなプロジェクトによる音楽の本質的理解の方が満足感を得られるということであろう。
(つづく)

cof
※写真はアルバム「Skin and Bow」(左)と筆者が初めて2003年に制作したCD(右)。

 


著者プロフィール
月刊連載『パイント・オブ・ギネス プリーズ!』毎月8日公開
icon_naga長濱武明(音響空間デザイナー・アイルランド音楽演奏家)

1992年に初めて訪れたアイルランドでアイルランド音楽と特有の打楽器であるバウロンに魅了され、以来十数回の渡愛の中で伝統音楽を学び、建築設計の実務も経験する。現在は音響空間デザイナーとしての業務をこなしながら、国内におけるバウロンプレーヤーの第一人者として国内外で演奏活動をする他、プロデューサーとしてコンサートやワークショップを主催している。
バウロン情報サイト バウロニズム https://www.facebook.com/Bodhranizm