bn_shiho

「ミルク!ミルク!ミルク!」

「デニッシュ」。

そう聞くと、日本の人はきっと、
「バターをタップリと使ったサクサクしたパン」を思い浮かべる。

たいていは甘くて、クロワッサンみたいな生地で、
真ん中にフルーツやカスタードが乗っていたりするパン。

でも、
「デニッシュ(Danish)」って、
「デンマークの~」という、ただの形容詞。
パンという意味は持たない。

「デンマークのデニッシュ」とか言っちゃったら、
「デンマークのデンマークの~」っていう意味になっちゃう。

なのに日本語の「デニッシュ」は、
「バターがタップリなパン」として、確固としたポジションをゲットしている。
「メロンパン」並みに、そのネーミングの立ち位置が安定している。

なぜだろう?

実際、デンマークのバターは、とても良質で安い。
バターだけでなく、チーズや生クリームなどの乳製品が、
スーパーにズラーッと並んでいて、その豊富さと安価に驚く。

そう。
デンマークは、「酪農王国」なのだ。

最近、日本のスーパーでも、
デンマークの大手乳製品会社「Arla 」の商品を見かけるようになった。
ちなみに、この「Arla 」社は、世界第7位の大きさを誇る。

国土全体の大きさは、日本の九州程度なのにも関わらず、
世界第7位ってすごくない?

この酪農王国デンマークで作られている、
バターを贅沢に使ったパンのことは、
「デニッシュ・ペストリー」と呼ばれることが多い。

そのデニッシュ・ペストリーを日本で最初に作ったパン屋さんが、
それを「デニッシュ」と名付け、
現在の揺るぎない立ち位置まで、成長させていったわけだ。
すごい!

だって、
デンマークのパンは、
ハード系やカンパーニュ系が圧倒的に多いのに、
日本では、デニッシュ・ペストリーのことを、
「デンマークのパン」として格付けしたってことでしょ。

酪農王国ならではの、芳醇なバターの美味しさが、
日本人のハートをグッと捉えて離さなかった証かなあ。

ちなみに、こちらがデンマークのパン屋さん。

ふむ。

で。

以前のコラムでも書いたことがあるけれど、
カフェをオープンする前に、
北欧を7週間ほど旅したことがある。

自分のお店で参考にできることはないかと、
毎日、様々なカフェに立ち寄った。

どこに入っても、すこぶる居心地が良く、
日本人が想像しがちな「かわいい北欧カフェ」というイメージを、
ことごとく、ぶった切ってくれて、
素晴らしく貴重で、面白い体験となった。

カフェをオープンして7年目になった今でも、
あの時の記憶を大切に手繰り寄せ、
ちゃっかり参考にしていることは、いっぱいある。

あ。

そう言えば、
「北欧のコーヒーは酸っぱくて美味しくない」という感想をよく聞く。

実際、
最先端のコーヒーショップの豆は浅煎りが多いため、
ドリップで淹れた場合は、酸味を強く感じることがある。

でも、この浅煎り豆は、
ミルクをタップリと入れて飲む、カフェラテを前提にしているんだよね。

もともと、エスプレッソと言えば、
フレンチローストに代表される深煎り豆が当たり前だった世界に、
この浅煎りの豆を持ち込んだのが、北欧のバリスタさんたちだ。

だって、
北欧の濃厚なミルクは、
フレッシュな浅煎りコーヒーにベストマッチングなんだもの。

これぞ、乳製品大国の北欧と、
コーヒー消費量ランキング世界トップの北欧が、
ピタリとハマった瞬間だよ。

あっぱれ!北欧のバリスタさんたち!

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で。

私がおススメしたいのは、
北欧に行ったら、スーパーの乳製品売り場を見ることなのだよ。

まずはね、その種類の多さに驚くはず。
牛乳だけとっても、乳脂肪分率が実に細かく分かれていて、
料理や飲料の用途によって選べるようになっている。

ヨーグルトやチーズ、生クリームにサワークリーム。
そして、バター。
まるで乳製品祭りのような販売コーナーに、軽く小躍りしたくなるはず。

そして、もうひとつの見どころは、
それらのパッケージデザインが、実に素敵なところかな。

思わず手に取りたくなるチャーミングなデザインや、
捨ててしまうことに勇気がいるほどオシャレなデザインが、
所狭しと並んでいるわけだから。

もうね、眩しいのよ。
美術館並みに、ときめくの。

そりゃそりゃそうだ、そうだった。

ここはデザイン王国、北欧だった。

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だからこそ、
地元スーパーに並んでいる、
デザイン王国と酪農王国の贅沢な競演に、
いちいちキュンキュンしてみよう。

北欧の暮らしが、なぜこんなにも豊かだと言われるのか。
案外、
その答えのひとつは、スーパーの中にあったりするかもね。

 


著者プロフィール

月刊連載『旅のち、たびたび北欧へ』毎月16日公開
prof_shiho伊藤 志保(いとう しほ)

カフェ「istut」のオーナー&厨房担当
自らが買付ける北欧ヴィンテージショップ「2nd istut」も営む
古いモノ、ヨーロッパ、蕎麦、ワインが好き
1969年生まれ 長野市出身