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三十三杯目 僕はこれから秋ごもり

随分と蝉が少なかった夏にパンチを喰らわすように、台風が秋を連れてきた。店からの帰り、虫の音に耳をすましてみるけれど、ここいらではなかなか聴き取れない。

日本ではコオロギを鳴き声を聴くために飼うが、中国では闘わせるために飼うらしい。

「闘蟋(とうしつ)」と呼ばれる、千年以上前に宮廷ではじまったこの遊びを知ったとき、国民性の違いについて考えさせられた。

先日、新規のお客さんのうちの一人が、突然誰とも目を合わさなくなった。うつむいて20分ほど黙り込んだあと、隣の友人に長い長い耳打ちをして帰っていった。なぜか闘蟋を思い出した。彼女の横顔がコオロギに見えた。

機嫌をとるのはよそう、わかりかえない。追うのはよそう、二度と来ないから。彼女は僕が気に入らなかった。それだけ。若い頃ならちょっと傷ついただろうけど…。

僕の苦手な10月がやってきた。毎年10月後半~11月後半はどうも調子が出ない。運気が下がり、元気がなくなる。

だからこの時期は、新たな挑戦などはせず、短い秋ごもりをする。

「射手座の貴方の場合、射手座のひとつ前の蠍座の時期は、蠍座のパワーが盛り上がり、射手座が影になってしまうから、運気が下がるんですよ。これはどの星座にもいえることです」。そうタロット占い師に言われたことがある。

占いの類いは好きじゃないけど、手相には興味がある。トランプ占いは信じないけど、雑誌の占いコーナーには目を通す。

動物占いはペガサスだった。満天の星を見ると、ギリシャ時代よりずっと前から星占いが存在したのは当然だなと思う。

世の中には、「不思議」という言葉を使う以外、いかなる適当な言葉も当てはまらない事柄が無限にある。

言葉で説明したとたん、意味を失ってしまうものもたくさんある。

心の弱い少年は、歳月の経過とともに心の弱い青年になり、いつしか心の弱い中年になった。

いまは星に願いをかけたい気もする。東京でも、もっと星が見えればいいのに。

うまく言えないけど、僕はいま、もう少し強くなりないと思っている。


著者プロフィール

月刊連載『外苑前マスターのひとりごと。』毎月15日公開
icon_saeki佐伯 貴史(さえき たかふみ)

BARトースト』のマスター
コーヒー会社で営業を経験後、雑誌の編集に興味を持ち『R25』『ケトル』等の媒体に携わる。歌と本と旅と人が好き。餃子は酢とコショウで食べるのが好き。